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ひろにか@二次小説寄り
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【東京マグニチュード8.0】目が醒めて、そこに有るのは

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我が家に帰ると、そこにはお馴染みの光景があった。


「うるさいなー、このロボオタク!」
「年上に向かってその言い方はひどいよー」
「そういうことは、腕相撲であたしに勝てるようになってから言うのね」
「無理だよ〜。マウンテンバイク担いで歩くような子に勝つなんて・・・」
「情けないなぁ・・・」


 女子中学生相手に泣き言を言う弟に苦笑しつつ声をかける。
 二人はこちらに気付いて顔を上げた。


「お帰り、姉ちゃん」
「お邪魔してまーす。あ、これお母さんから」
「わ、ケーキ! それも円いやつ・・・やっぱり真理さんわかってる! 一緒に食べよっか?」


 あたしの言葉に、少女は勢いよく立ち上がる。


「未来おねえちゃんもわかってる! じゃあ半分こね」
「ちょっと雛ちゃん、僕の分は?」
「悠貴くんはロボットいじってればいいじゃない。それに、大学生の男の人は甘いもの食べないでしょ?」
「勝手に決めないでよー」


 本日も小野沢家は賑やかだ。



目が醒めて、そこに有るのは



「見て見て、あの人の後ろ! 東京タワー!」
「本当だ。近くで撮ってたのかな」


 あたしと悠貴と雛ちゃん。
 三人でケーキを食べながらテレビを見ていたら、現役中学生の高い声が上がる。
 悠貴が返事をするが、あまり関心のなさそうなその答が不満らしく、雛ちゃんは顔を歪めた。
 軽く扱われるのが嫌なのだろう、その感覚には覚えがあるので話しかけてみる。


「雛ちゃん、今日は制服じゃないんだね」
「うん、もう夏休みだから」


 声をかけられて素直に嬉しそうな顔をする少女に微笑ましい気持ちになったが、その思いはすぐにしぼんでいった。


「そっかぁ。いいなー、学生は・・・」
「がんばれ新社会人!」
「まだ『新』なのかなー? もう夏だよ」
「でもさ、研修期間も終わっていよいよこれからでしょ? 毎日大変なんじゃない?」
「わかる?」
「そのスーツ、すっごく暑そう」
「それはもう」
「熱中症には気をつけなよ」
「はいはい」



 軽口の応酬に、小言を差し挟んできたのは悠貴だった。それは適当に流して目を逸らす。
 目に映るのは、穏やかな光景。
 真夏の太陽はまだお仕事中で、外はまだ明るい。


 窓から見える東京の街並みをぼんやりと眺めて生返事をしたら、弟にため息を吐かれた。
 何だろう。まあ、多少上の空だったことは認めるけど、思春期少女でもあるまいに寂しいなんてことは・・・


「何?」
「この間、母さんの誕生日だったろ」
「それが?」
「お台場で倒れたの、ちょうど今くらいだったじゃないか」


 言われて思い出す。確かにそれは事実だけど・・・


「あんた、よく覚えてるよね・・・。そんなの、もうずっと前の話でしょ」
「10年前だよ」
「へー、そんなことがあったんだ」



 あたし達のやり取りに興味を持ったらしい雛ちゃんも会話に入ってきた。
 でも、実はこの話、この子と全く関係が無いわけでもなかったりする。


「その時なんだよ、僕らが真理さんに初めて会ったのって」
「え、そうなの? お母さんは学校の帰りに会ったとか言ってた気がするけど・・・」


 悠貴の言葉に考えこむ雛ちゃん。
 あたしは続けて説明した。



「ホントの初めはあそこだったんだよね。あたしってば、夏休みの初日から熱中症で倒れちゃってさ」
「うわー、悲惨だね・・・」
「そうそう。意識が朦朧として体は動かないし、手すりに寄りかかってるだけに見えたみたいで、人はいたけどみんな素通りしてくし・・・真理さんが助けてくれなかったら、人間不信になってたと思う」


 何せ、その下地は十分にできていた。
 当時は家も学校も、自分の周りの全てが嫌で。


「真理さんは本当、恩人だよ」
「大げさだなぁ」


 その女性の一人娘は苦笑する。
 ああ、出会った頃、この子はまだ4歳で。
 乗っていたのもマウンテンバイクじゃなく、かわいらしいピンクの三輪車だった。
 写真を撮る時に見せてくれる笑顔はちっとも変わらないけれど。


「うーん、あながち間違ってないかもよ。その頃の姉ちゃん、いっつも期限悪くって。あとオマケにケータイ星人だったし」


 悠貴はあたしの意見に同意らしい(それも何となくフクザツなものがあるが)。
 それにしても、本当によく覚えている。


「全部壊れちゃえー、とか思ってたからね」


 今となっては、恥ずかしい話だ。


「そんなの、あたしだって思うよ。終業式の日に、こーんなに宿題出されてさ」


 「こーんなに」のところで、雛ちゃんは両手を大きく広げる。


「もう学校なんかなくなっちゃえーって」


 そういえば、今のこの子はあの頃のあたしと同じくらいの年なんだっけ。
 10年、か。時間が経つのって早い。
 そんなことを思いつつ、言葉を返す。


「いやー、あたしのはそんなもんじゃなかったね。もう『東京全部壊れちゃえ』って勢いだったよ」


 あたしの言ったことには流石に彼女もびっくりしたみたいで、ちょっと恐る恐る口を開いた。


「それは・・・なんでまた。聞いてもいい? 理由」


 当然の疑問だけれど、聞かれると困る。ただし、雛ちゃんが考えているのとは全く別の方向で。


「えーっと、実は無いんだよね。はっきりした理由。トクベツ何かあったわけでもないし」
「そ、そうなの?」


 拍子抜けした様子のこの子は、あの頃のあたしみたいにひねくれていないのだろう。
 流石は真理さん、いい子に育ててる。
 この真っ直ぐさは・・・ちょっとからかいたくなるかも。


「強いて言えば・・・」
「言えば?」


 興味津々でこっちを見ている。うん、いい反応ね。


「夏の日差しのせいかなぁ」
『何それ』


 未成年二人の声がハモった。
 ありゃ、わかんないか。そうだよね。


「思春期の抑えがたい衝動・・・みたいなものがね、あったのよ。反抗期っていうかさ」
「最初からそう言えばいいのに・・・」


 言い直すあたしに、悠貴がぼそりと突っ込む。
 まずい、話を戻そう。


「そんな感じの生意気な子どもだったんだけどさ、真理さんに助けられて『世の中そう捨てたものじゃないかも』とか思ったわけ。ただ、その時はすんなりお別れしたのよ」
「で、新学期が始まってすぐ下校途中に再会して、それで仲良くなって雛ちゃんと出会うことにつながった、と」
「へー」


 あたしと、跡を引き継いだ悠貴の説明に、雛ちゃんは納得したようだ。
 それからあたしはケーキに専念することにして会話を切り上げた。
 食べ終わった年少コンビが談笑している様子は、奇妙に心が安らぐ。


――何て平和なんだろう。これも『−−−』が無かったおかげだ。


 ・・・・・・?


 無造作に浮かんだ念に、紛れ込んだ不可解さ。一瞬、流しそうになったが引っ掛かった。


――『−−−』? 何、それ。