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【APH】姫君の憂鬱【普列】

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姫君の憂鬱





「……はぁ」
 少し空気も冷えてきた初秋。色とりどりの花が咲く庭で、リヒテンシュタインは溜め息を吐いた。物憂げな碧の瞳は、小さな手の中の可愛らしい携帯電話に向けられている。まだ新品らしいそれには傷ひとつない。
「困りました」
 ぱかりと折り畳み式の携帯電話を開けば、顔を覗かせた待ち受け画面はデフォルトのままだ。どこかボタンを押してみようと指を動かしては見るものの、どうも押す寸前で止まってしまう。
 リヒテンシュタインは暫く携帯と睨めっこして小さく唸ると、もう一度溜め息を吐いた。
「折角買っていただいたのに、使えないなんて寂しいです」
 ぽつりと漏らし、携帯電話を閉じる。彼女の華奢な掌に収まってしまうほどの小さな電子機器はしかし、現在リヒテンシュタインの最大の悩みとなっていた。
 ほんの数日前、スイスに携帯電話を買ってもらったのは良いものの、肝心の操作方法がさっぱり分からないのである。説明書を読んでもいまいち頭に入らない。下手にボタンを押してしまっては壊れてしまわないかと不安になって、結局真面にいじることも出来ていないのだ。メールも電話もしたことがないし、電話帳にもまだスイスの名前しか入っていない(買ったときにスイスが前もって自分のデータだけ入れておいたらしい)。
「(あの時使い方をお聞きしたほうが良かったでしょうか……)」
 携帯電話を貰ったときにスイスから使い方は分かるかと訊かれ、ついうっかり肯定の返事をしてしまったからいけない。やっぱり分かりませんというのも恥ずかしくて、改めて教えてもらうことも出来ないのだ。
 幸いまだスイスから連絡が来たことはないし、自分から連絡が必要なこともないから助かっているのだが。
「(誰か、こういうことに詳しい方はいらっしゃるでしょうか)」
 電子機器に強いという意味ではエストニアだろうか。しかし彼とはそんなことを気軽に訊きに行けるほど親しい仲ではない。それならば兄と比較的親しい日本は、と思うが家が遠すぎる。オーストリアは自分と同じく機械が苦手だし……
 なかなか相談出来るような相手が思い浮かばず、リヒテンシュタインの眉間に皺が寄り始めたとき。
 ピンポーンと、インターホンが鳴り響いた。
「……どなたでしょうか」
 リヒテンシュタインは携帯をワンピースのポケットに収めるとベンチから腰を上げ、玄関の方へ歩いてゆく。スイスは出張で家を空けているから、その間は自分がこの家の主だ。来客を放っておく訳にはいかない。
 きゅっとお気に入りのリボンを縛り直し、玄関の方に顔を覗かせる。そこに立っていた人物の姿を見た瞬間、思わず声が出た。
「あら」
「うん?」
 その声にあちらもリヒテンシュタインに気づいたらしく、彼女の方に視線を向けた。そうして快活な笑顔を見せて、片手を挙げた。
「よぉ」
「プロイセンさん」
 リヒテンシュタインは小走りでプロイセンに近づくと、礼儀正しくワンピースの裾を軽く持ち上げ礼をした。最初こそ上流階級の令嬢のような――あながち間違いでもないが――彼女の対応に戸惑っていたプロイセンだが、もう何度か会っているので、慣れた風に自分なりの簡単な挨拶で返す。リヒテンシュタインはそのことについて特に不快には思っていないようなので、直すつもりはなかった。
「(しかし、あのスイスの妹とは思えねぇな。相変わらず)」
 プロイセンはライフル銃を常備しているリヒテンシュタインの兄の姿を思い出して苦笑する。そんな彼に、リヒテンシュタインはことりと首を傾げた。
「どうかなさいました?」
「あぁいや、何でもねぇよ。それよりスイスは?」
「兄さまでしたら、お仕事で数日家を空けていますが」
「あー……なんだ、そっか」
「お兄さまに御用でしたら、済みませんがまた日を改めて――」
 どうやら不在の兄に用事があったらしいプロイセンにそう言いかけたところで、ワンピースのポケットが震えた。思わずびくりと肩を竦ませるリヒテンシュタインに、プロイセンが訝しげな視線を向ける。
「どした?」
「あっ、その――あわ、どうしましょう」
 リヒテンシュタインは慌ててポケットから携帯電話を取り出したが、やはりどう操作して良いものか分からずにあたふたしてしまう。そうしているうちにも振動は止まっていて、液晶画面には『着信メール一件』とだけ表示されていた。
 普段はあまり表情の変わらないリヒテンシュタインの顔に焦りが浮かぶ。
「どうしましょう……お兄さまから」
「あ?」
 プロイセンが何気なくピンク色の携帯を覗き込む。それからリヒテンシュタインの顔を見れば、彼女の助けを求めるような瞳と目が合った。
「……どうした?」
「あ、いえ、その……」
「……もしかして、使い方わかんねぇとか」
 プロイセンの核心を突く発言に、リヒテンシュタインは数秒の間を置いてこくりと小さく頷いた。それを見たプロイセンはおもむろにその手から携帯電話を取り上げた。
「プロイセンさん?」
「ちょっと待ってろ」
 それだけ言って携帯電話を操作し始めるプロイセンを見上げ、リヒテンシュタインは不安そうに指先を組んだ。しかしその数秒後、携帯電話を目の前に差し出されたときには画面は可愛らしい待ち受け画面から切り替わっており、つい先ほど届いた受信メールを映し出していた。
 リヒテンシュタインは携帯を受け取って、短い文面を目で追う。差出人は兄。内容は明日には帰れるとか、寝るときにはちゃんと戸締りをするようにとか、そんなちょっとしたことが箇条書きで書かれた簡単なものだった。
 メールを読み終え顔を上げたリヒテンシュタインに、プロイセンが声をかける。
「別に内容とかは見てねぇから安心しろ」
「あ……ありがとうございます」
 頭を下げるリヒテンシュタインに、プロイセンは面白そうに笑う。
「しかしまぁ、携帯のいじり方がわかんねぇとはな……」
「私、機械はあまり得意ではなくて」
「そんな気はするけどよ。説明書読んでも分からないタイプだろ」
 図星を指され、リヒテンシュタインは頷くしか出来ない。
「スイスは教えてくんねぇの?」
「操作方法……分かると言ってしまったので、訊くにも訊けずに」
「成る程なぁ」
 実に彼女らしい理由だと納得し、プロイセンは頷く。別にスイスだって鬼ではないし、妹には甘い節があるから教えて欲しいと訊けば普通に教えてくれるのだろうが、謙虚な彼女は行動に移せない訳である。
 そんなリヒテンシュタインを哀れだと思ったのか、プロイセンはほんの気まぐれで一つの提案をした。
「そんじゃ、俺様が教えてやろう」
「……はい?」
 突然の申し出にリヒテンシュタインは目を丸くする。幼い風貌が更に幼く見えるような表情。こういった顔は今までに見たことがなかったので、プロイセンは何だか新鮮な気持ちになった。
「俺、結構機械強いんだけど。迷惑じゃなけりゃ教えてやるぜ?」
「宜しいのですか?」
「宜しいですよ」
 リヒテンシュタインは数度プロイセンの顔と携帯電話を見比べ、そうして先程プロイセンに助けてもらったことを思い返して、それなら、と赤い瞳を見上げた。
「お願いしても宜しいでしょうか。その……お恥ずかしいですが、本当に何も分からないので」
作品名:【APH】姫君の憂鬱【普列】 作家名:三月