二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

【APH】姫君の憂鬱【普列】

INDEX|2ページ/4ページ|

次のページ前のページ
 

「おうよ。俺様に任せとけ!」
 胸を叩いて自信たっぷりに言い、プロイセンはズボンのポケットから携帯電話を取り出す。さすがにここで教えてもらうわけにも行かないと思ったリヒテンシュタインは玄関を開け、プロイセンににこりと笑いかけた。
「玄関先では何ですし、中へどうぞ。お礼にお茶をご馳走します」

 リヒテンシュタインが用意したコーヒーと茶菓子の甘い香りの漂う客間で、二人は同じソファに並んで座った。その手には各々の携帯電話。プロイセンは自分の携帯と照らし合わせながら、少しずつ操作法を教えていった。
 元々リヒテンシュタインは物事の飲み込みが早い。どうやら説明書は文字ばかりで分かりにくかっただけらしく、実際に目の前で操作して見せればすぐに覚えていった。
 基本的な操作を覚えるのにかかったのはほんの十数分。続いてメールの打ち方を教えながら、プロイセンは何となくリヒテンシュタインの横顔に目をやった。
「(……結構、綺麗なんだな)」
 リヒテンシュタインは教えられたとおりに兄への返信メールを作成するのに夢中になっていて、プロイセンの視線には気づいていない。しかしその真剣極まりないエメラルドの瞳に、プロイセンの目は自然と吸い寄せられていた。
 彼女の姿は何度も見たことがある。仕事でスイスの家を訪れたときにお茶を出してくれるのはいつだって彼女だし、世界会議の場や街中でも見かけることはあった。ただ、こうして並んで座るほど親しい間柄ではなかったが。
 携帯電話の操作法を教えることにしたのはただの気まぐれだ。スイスとたっぷり仕事の話をして帰るつもりだったから時間は余裕だったし、ただ来て帰るだけというのもつまらなかったから。ただそれだけ。別に彼女に特別な感情があった訳でも何でもない。それどころかあのスイスの妹という理由で何となく敬遠していたくらいだ(下手に話しかけるとスイスが問答無用でライフルを向けてくるので)。
 しかしスイスが傍にいない今、彼女は普通の女の子も同然だ。勿論彼女自身も銃は扱えるが、その性格上兄のように乱射したりはしないだろう。
「(よく見ると、普通に可愛いし)」
 艶のある金髪は兄とおそろいのショートカット。キメの細かい肌は白く、頬にはほんのりと赤みが差している。今まで気にも留めなかったが、こうしてしっかり見てみるとまるで人形のように愛らしい少女だ。
 なぜか、彼女の横顔を見ているうちに少しずつ鼓動が速くなっていく。
 プロイセンは暫くそうしてリヒテンシュタインの横顔に見入っていたが、その碧の瞳が不意にこちらに向けられて思わず顔を逸らした。心臓が煩く鳴っているのに気づいて胸元を押さえる。
「プロイセンさん?」
「お、おぅっ! どうだ、打ち終わったか?」
 不思議そうに名前を呼ぶリヒテンシュタインに目を向けようとするが、妙に意識してしまって真面に顔も見られない。声が少し上ずっていたが、リヒテンシュタインはプロイセンの動揺には気づいていない。
「はい。ちゃんとお兄さまに送信出来ました」
 リヒテンシュタインはほっとした様子で言う。どうやらプロイセンがその横顔を凝視していたことにも気づいていないようだ。
 プロイセンは心の中で安堵の息を吐きながら、そうかと返した。
「それならまぁ、基本はこんくらいだな。他の機能はそんなに使わねぇし」
「そうですか」
 しかしリヒテンシュタインは携帯電話を閉じようとはせず、恐らくは何の意図もなくプロイセンにこんなことを尋ねた。
「あの……もし宜しければ、プロイセンさんの電話番号とメールアドレスを教えていただけないでしょうか」
「――は? 俺の?」
 目を丸くするプロイセンに頷いて、リヒテンシュタインは自分の携帯電話の電話帳を開き、プロイセンに見せる。
「私、まだお兄さまのアドレスしか入っていないんです」
 彼女の言うとおり、電話帳に映し出されているのは兄たるスイスの名前だけだった。買って数日だというし、尚且つ操作方法が分からなかったのだからそれも当然だろう。しかし一人分のアドレスしか登録されていない電話帳というのも実に寂しい。せめて十人くらいまでは増やしたいところだ。
「それに、また分からないことがあったら連絡を取りたいですし」
 リヒテンシュタインの視線には特別な意味は含まれていないのだが、プロイセンはどうしても胸が高鳴るのを押さえられなかった。
「あぁ……ま、良いけどよ」
「あ。でも、登録のし方も分かりません……」
「んじゃ教えながらな。ちょっとそれ貸してみろ」
 差し出した手にピンク色の携帯が載せられる。リヒテンシュタインが握り締めていたそれはほんのりと彼女の温かさを纏っていて、プロイセンは墓穴を掘ってしまったと全力で後悔した。
 意識し始めた途端にこんな、間接的とはいえど彼女に触れるようなことをしてしまったプロイセンは半ばパニックになっていた。数百年と生きているがろくに女性に触れたこともない(ハンガリーはプロイセンの中で女性カテゴリに入らない)ので、余計とも緊張してしまうのだ。
 さっきまでは何てことなく教えていたけれど、今は大丈夫だろうか。ちゃんと言葉になっているか、伝わっているか不安になる。
「(つか、よく考えたら距離近いだろ……これ)」
 同じソファに並んで座って、しかもリヒテンシュタインはプロイセンの手元を見るために少し顔を近づけてきている。ほのかなミルクの香りが鼻を掠め、顔に熱が集まってくるのが分かる。
 プロイセンはそれでも何とかリヒテンシュタインの携帯電話に自分のアドレスを登録して彼女に返した。リヒテンシュタインは頭を下げ、本日何度目かも分からない感謝の言葉を口にする。
「ありがとうございます」
「あーいや、気にすんな。礼言われるようなことはやってねぇし」
 言いながら、プロイセンはふと自分の手元にあった携帯電話を手に取った。小鳥のストラップがつけられた黒い携帯電話は最新モデルのものだ。プロイセンは少し迷った末、リヒテンシュタインのほうにそれを差し出した。
「お前のアドレス、入れとけ」
「え?」
 きょとんとするリヒテンシュタインとは頑なに目を合わせようとせず、プロイセンは少しどもりながら続ける。
「お前ばっか俺のアドレス知ってるとか、不公平だし……れ、練習も兼ねてだ」
 それらしいことを言えば、リヒテンシュタインはおとなしく黒の携帯電話を受け取ってゆっくりと操作し始める。彼女は特にプロイセンが持っていたものに触れているということを意識している様子はない。当たり前のことなのだが、少し切なかった。
「(っだー! 何でこんなに意識してんだよ俺……!)」
 自分の物に彼女が触れているというだけでドキドキしてくる。何故だろうか。これでもしも彼女に触れてしまったのなら、彼女が自分に触れてきたのなら、どうなってしまうんだろう。その瞬間を想像するだけでも心臓がおかしくなってしまいそうだった。
 例えばその髪に触れたのなら。その手を握ったのなら。頬に触れてみたのなら。
作品名:【APH】姫君の憂鬱【普列】 作家名:三月