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【APH】姫君の憂鬱【普列】

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「……どう、しましょう」
 触れられない。触れてしまったらきっとあの人を思ってしまう。
 リヒテンシュタインはこの気持ちが何なのか、ぼんやりとだが悟っていた。暇つぶしによく読む小説の中に出てくる心理描写。例えるのならば、あの表現が一番しっくり来る。
 そう。真綿のようにふわふわとして、意味もなく幸せで、だけど凄く不安で、その人のことが頭から離れない――
「……どうして、でしょう」
 仮に、本当にそうだったとして。
 自分がプロイセンを好きになる理由が見当たらない。確かに良い人だとは思うけれど、だからといって恋愛対称に結びつくような相手ではなかったはずだ。けれどリヒテンシュタインは、彼からのキスを嫌だと思わない自分がいることに気づいてしまったから。
 あまりにも突然のキスを、彼が何を思ってしたのか分からない。
 だけどそれは、自分の中に新しい気持ちを芽生えさせた。誰かを恋い慕うという気持ちを。
「お届けに、行かなくちゃ」
 携帯電話から窓の向こうに視線を移せば、走り去ってゆく銀色の髪が見えた。あぁ、行ってしまった。携帯電話を忘れたことに気づいていないのだろうか。けれどその後姿に窓を開けて声をかけることなど出来ず、リヒテンシュタインはただプロイセンを見送った。
 彼の姿が見えなくなると再び置き去りの携帯電話を見て、どうしましょうか、と呟いた。
「折角アドレスを教えていただいたのに、これじゃぁ連絡も取れないじゃないですか」
 リヒテンシュタインは甘い溜め息を零すと指先で黒い携帯電話をつと撫でて、そっと手に取ってみた。
 折角悩みが消えたと思ったのに、またひとつ大きな悩みが増えてしまった。それも、簡単に人に相談出来ないような悩み。
「(プロイセンさん……)」
 頬に手を添えてそっと瞼を下ろし、次にあったときにはなんと声をかければ良いんだろうかと、熱っぽい頭でぼんやり考えた。
作品名:【APH】姫君の憂鬱【普列】 作家名:三月