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家庭教師情報屋折原臨也6-1

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 臨也は携帯を弄ることなく、窓の外を眺めていた。

 ――― この席、懐かしいなぁ……

眼下に広がる運動場の光景は何一つ変わっていなかった。今はダンスの発表なのか十数人の生徒が同じような格好をして、微かに聞こえてくる音楽に合わせて動き、陣を変えていた。

 ――― 後ろにドタチンが座ってて、何度も起こされたっけなぁ

放っておけばいいのに、何度も背中をつつかれた記憶が思い起こされた。椅子を少し引き、背もたれに体重を預けた。背中に当たる角の位置もあまり変わっていない。

 ――― 懐かしい、か……

良い記憶ばかりではない。危ない橋を何度も渡ったし、刃物はもちろん銃器とも出会った。けれど充実はしていなかった。ほとんどすべてが自分の思い通りに進み、利用でき、使った。足りなかったのは刺激だ。今になって見つけた刺激。これが足りなかったのだと、臨也は気付いた。

「おい」
「え?」

不意に声をかけられ、臨也は窓の外から視線を戻した。見れば、静雄がティーカップとパウンドケーキの乗った皿を左右の手に持って立っていた。

「紅茶と、パウンドケーキ」
「あぁ、ありがとう」

ごめん、全然気づかなかった。臨也は苦笑しながら、テーブルに並べられるそれらを見ていた。見た目からすると、パウンドケーキはどうやら手作りのようだった。

「そういえば思ったんだけどさ」

紅茶にスティックシュガーを流し込み、くるくると混ぜながら臨也は尋ねた。
「静雄君、他のお客さんと俺とで態度違わない?」

すると、静雄は肩をすくめ、短く息を吐いて一言。

「…疲れるんだよ」

その声音は本当に疲れているようだった。

「接客自体は嫌いじゃねーけど、知らないやつ相手にすると気使う必要があるし、それに」

何故か話しかけてくるんだよ。女が。

そう言って静雄は片手を腰に当て、もう片方の手で頬を掻いた。
 なかなか贅沢な原因だなぁと、臨也は心の中でごちた。教室全体に軽く目を回せば、確かに何人かの女性客がこちらをちらちらと見ていた。しかし静雄の様子を見る限り嬉しいとか恥ずかしいとかはなく、単純に疑問に思っているだけのようだった。

「そうだ、静雄君この後暇ある?」
「え?…あー、昼の後なら」

一度時計を見て、静雄は答えた。

「一緒に回らない?」
「おう」

すると、クラスメイトが彼の名を呼んだ。見れば受け渡し口から顔をだし、手招きしていた。

「じゃあ昼終わったらメール送ってね」
「あぁ」

臨也はパウンドケーキを一口大に切り、口に入れた。

「あ、これいい」

感想が思わず口から洩れた。