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家庭教師情報屋折原臨也6-1

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 二階は三年生の出し物とあって気合が入っており、その分客も多かった。廊下は往来が辛うじてできるぐらいで、立ち止まるなんてことをすればただの邪魔者にしかならなかった。
 三年二組の教室は予想通り奥から四番目に教室のプレートが掛かっていた。臨也は人の波にうまく乗って進み、教室の前まで出た。すると、何人もの女子生徒が窓から中の様子を覗いては、携帯を構えて写真を撮っていた。メールブロックで画面を見ることは出来なかったが、直接窓から中の様子を見て、納得した。

 ――― へぇ……

臨也は教室内で忙しなく動き回る生徒に混ざっている静雄を見て、笑った。いつもの無造作な金髪は、長めの前髪は赤いピンで留められ、後ろは小さく束ねていた。白いカッターシャツは袖を捲り、黒のスラックスを穿き、腰には濃いベージュのエプロンを巻いていた。ただのギャルソンの格好だが、静雄が着るとドラマにでも出てきそうな二枚目のイケメン給仕に早変わりなのであった。

 ――― これは楽しみだ。

案内を待とうと用意されていた椅子に座り、臨也は携帯を開いた。幸い、メールはまだ一件も入っていなかった。しばらくすると先客の女性たちが立ち上がった。出てきた店員を一瞥して臨也は思わず吹きそうになったがそこは堪えた。しかし肩が震えたのはおそらく伝わっているだろう。黒さを含んだ笑みを残して店員は女性たちを教室に案内していった。後ろにも客が並び始めた。臨也はそのまま暇つぶしも兼ねて次の仕事の依頼の内容を携帯で調べた。

 ――― 次は確か。

こういう時、タッチパネルは本当に便利だと感じる。方向キーを連打しなくとも画面上を滑らせればページがスクロールされ、自分のペースで文章を追うことができ作業効率も上がる。難点はやはり指紋が残ることだが。

「次のお客様……」

すると、横に店員が立った。その声は若干とげとげしかったが、聞き覚えのある声に臨也は顔を上げた。
 見ればそこには見知った顔。

「やぁ」
「折原さん?」

案内に来たのは静雄だった。彼は臨也の顔を見るなり目を見開き、硬直した。

「何で」
「何でって、遊びに来たんだよ」

臨也は携帯をポケットにしまい、立ち上がった。

 教室内は以外にも比較的静かだった。臨也は窓に近い席に案内された。机は二つ合わせて白とオレンジのギンガムチェックの二枚のクロスが掛けられていた。椅子の方も気を使っているのか、新しさの残るきれいな椅子だった。

「これ、メニューだ」

そう言って渡されたカードはなかなかに作りこんであった。厚紙にレザック紙を張り、メニューの書いてある紙も写真付きで見やすかった。さすが三年生、と臨也は少しだけほめた。

「じゃあ紅茶とプレーンのパウンドケーキで。紅茶はストレートでいいよ」
「わかった」

静雄は胸ポケットに入れていたメモに書きとめ、メニューを臨也から受け取って机と布で仕切られた奥に入っていった。

「新羅」

一休みにペットボトルのお茶を飲んでいた新羅に、静雄は声をかけた。

「何だい?静雄」

少しだけ首を上げ、新羅は静雄の顔を見た。そこには焦りのような、恥ずかしさのような、微妙な色をした顔があった。

「折原さんが来た」
「臨也が?」

おやと言いたげに返すと、新羅はそのまま仕切り布から覗いた。窓際の一番日の当たっている、運動場が見下ろせる良好な席に臨也の姿を見つけた。