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【臨帝】ポッキーゲーム【腐向】

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「やあ、待ってたよ帝人君」
「はあ…」

どうやら風邪を引いたらしい僕は、朝から微熱を出してしまい具合が悪くて。
保健室で世話になりつつも、なんとか一日の学業をこなしヨロヨロになりながら帰宅した。
気味の悪い音を立てる赤錆びた階段を上りキイとドアノブを回した先から聞こえた美声にどっと疲れが押し寄せた。
基本的に物を置かない主義である僕の部屋はがらんとしているけれど、その人物がまとう漆黒のコートは室内に存在感を与える。
しかし、胡坐をかく漆黒の主が周囲に点在させている幾つもの半透明なビニール袋が、異様な雰囲気を漂わせていた。

「連絡も無く、不法侵入するの止めてもらえませんか?」
「お邪魔してるよ」
「事後報告は受け付けません」
「まあ、俺と君の仲じゃない。遠慮する事無いでしょ?」
「遠慮してくださいって、言ってるんですけど?」

はあっと盛大な溜息を吐いて見せたところで、視線の先に居る人物は僕が迷惑している様を見てニヤニヤと楽しげに笑んでいるだけだ。
この不毛なやり取りを続けても、相手に理解する意志が無い事は判っている。
むしろ人が嫌がる反応を見て楽しんでいる事なんて、重々承知している。
だったら無視を決め込みつまらない反応をしてやることが一番効果的な策だと判っているのに、でも文句を言わずにいられないのだ。

折原臨也。新宿の情報屋で絶対に係わってはいけない人物。しかし――僕の中学生時代を、ネットを通じて支えてくれた、人。
内に篭り家族とも最小限の会話しなかった僕は、ネットの中の世界でだけ素直でいられた。
そんな僕が一番親しくしていたチャットルームの管理人だと知ったのは、係わってはいけないと警戒をしていた只中のことだった。

今まで生きてきた中で目にした、誰よりも綺麗で誰よりもひどい人。それが折原さんだった。

綺麗な花を咲かせる薔薇だけど、その大輪の花を実らせる本質の茎には触れる者を傷つける、棘がある。だから見ているだけ。触れてはいけない。自らを傷つける事が、無いように。
まるで、この人みたいだと。花屋の店先でぼんやり思ったのはつい先日。こうして日常の中に彼を見い出す自分がくやしく思える。だって彼を意識してい居るんだと、自覚せざるを得ないから。

「ところで、何ですかそれ」

ニヤリと不敵な笑みを浮かべながら僕が指差す先にある一塊を持ち上げてみせた人は、こう宣言した。

「ゲームをしようと思ってね」
「ゲーム、ですか?」
「今日が何の日か知ってるかい?」
「11月11日ですけど?」
「俺は今日が何日かと聞いたんじゃない。今日が何の日かって聞いたんだよ」
「判っていて、そう答えたんですけど?」
「相変わらず可愛くない反応をする、君が好きだよ」

いつもこうだ。さらりとこの人は僕を好きだと、まるで息を吸うように呟くけれど。
その言葉に気持ちが込められていない事は良く判っている。
だって、好きだ、愛してる。と告げても――その先を求めない。僕に何も、求めない。

折原さんは一ヶ月に2.3度こうして不法侵入し僕を適当に構って、勝手に満足して去っていく。
その時に持参する高そうな折り詰め弁当や、大ぶりのフルーツがゴロゴロ乗っかった贅沢なデザート。
僕が折原さんを待つ理由は、それらだけ。彼じゃ、ない。彼ということにしてやらない。認めたらもう終わりだと思うから。

きっと、周囲に転がってるビニール袋には菓子が入っている。
チラリと垣間見えた菓子箱はコンビニやスーパーの陳列棚で良く見かけるものだったから。
仕送りとネットの副収入で生活している僕は、お菓子など嗜好品への支出は極力きりつめている。これだけあれば当分菓子に困る事は無いだろう。与えられた嗜好品の山に機嫌を良くしている、だけだ。決して、彼の出現を喜んでいるわけではない。彼に会えたから、胸が熱くなっている訳じゃ、ない。そう言い聞かせるけれど――「座りなよ」と隣を叩き「ぼら、おいで」と小さく手招きをする仕草は、少女漫画の世界から抜け出してきたイケメンの登場人物みたいに様になっていて。
薄い唇の端をふっと持ち上げる甘い微笑みに、きゅんと胸が締め付けられた。

「あ…お、お菓子っ、持ってきて、くれたんですねっ…!あ、有難う御座います」
「今、ドキッとしちゃった?顔、真っ赤だよ」
「違います!僕、なんか風邪引いてるっぽくて…」

そう告げると折原さんはわざとらしく肩を竦め、心配そうに眉をひそめる。舞台俳優のようなわざとらしい演技に僕はもう、騙されないのだ。

「おや。そうなのかい?大丈夫?看病してあげようか?」
「いりませんよ。ロクでもない目にあいそうなんで」
「アハッ!可愛くないねえ~!そんな所が、好きだよ」

織り交ぜられた好きという言葉に、ときめきなんて感じてやるものか。僕は自分の頬が熱くなるのを感じつつも懸命に自我を保った。
いい加減座ったらという彼の主張をうけ、僕は折原さんの隣にあるビニール袋をずずっと横にずらし、隣に座り込む。すると彼は袋の持ち手をバッと開き、中身を披露しこう続けた。

「ほら。どれがいい?」
「どれって…」

袋の中でひしめき合う菓子箱はどれも同一のタイプで、彼の告げたゲームの種類に確信を得る。

「やっぱりポッキーゲームしようとか、そんなオチなんですね。僕なんかが相手で楽しいんですか?」
「君は判ってないね。ポッキーゲームの奥深さを。細く折れやすいタイプか。噛み締めなければ折れない、チョコレートが濃厚なタイプか。どのポッキーを選ぶかで戦況は変わる。そして、どの攻略法で相手を追い詰めるかも重要だね。先に大部分を持っていくのも良いし、ゆっくり進めていくのもいい。ここで性格が出るからねぇ。食うか、食われるかの駆け引き!ああ、楽しみだなぁ!」

意気揚揚と告げた折原さんは満足げな笑みを浮かべうんうんと頷き、顎の先を使い「ほら、早く選びなよ」と僕の答えを急かす。

「他にも沢山あるから、君の好きな駒を選ぶと良いよ」
「僕がゲームをしないって言う選択は、考えないんですか」
「先にギブアップした方が負けね。賞金は五万円」
「え、そんなに?」
「一万じゃやらないだろうし、三万じゃ悩まれる。五万なら飛びつく金額かなって。それだけあれば冷蔵庫だって洗濯機だって買えちゃうよ?寒くなってきたからコタツもいいね。コタツ本体とコタツ布団を買っても充分お釣りがくるねぇ?冷蔵庫をセット買っても良いし、洗濯機だって買えちゃう。そしたら帝人君の生活も、だいぶ楽になるだろうなぁ~?」

僕が貯金を貯めたら買おうと思っているトップ3を提示されてしまえば、ニタニタと意地悪な笑みを浮かべている折原さんをムカツクと思いながらもゲームに挑むしかない。確かにそれらが在れば今後の生活がぐんと楽になる。

「判りました。ゲームやります」

彼が僕をからかう為にこんな真似を仕掛けてきただけだと、判っているのに。頭の奥で。
どちらも屈することなく――唇が重なってしまった瞬間を期待している、僕がいた。

***
「へえ。君なら乗ってくると思ったよ。だってこういう非日常が大好きだもんねぇ」
「仕方ないでしょう。賞金が掛ってるんですから」