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【臨帝】ポッキーゲーム【腐向】

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精一杯の強がりを言ってみせながら折原さんが差し出すビニール袋の中身を覗き込んで見たが、ポッキーだけでなくプリッツや似たような菓子が沢山入っている。
周囲のビニール袋も漁ってみたが、同じ種類は一つも無くて。中にはジャンボサイズの土産物や、外国製の類似品まで入っていた。僕はこれほどポッキーに種類があったのかと驚いたが、良くここまで用意してきたなと彼の周到さに感心する。

「なかなか、駒を選べないみたいだね。これとかどう?――帝人」
「っ…!」

一瞬、名前を呼び捨てられたのかと思って妙な歓喜に胸が熱く震えた。
折原さんが手にしている菓子箱は彼が以前「君と同じ名前のお菓子だから、好きなんだ」と告げ、目の前で妙にいやらしく舐めたりしながら満足げに食していた一品だ。
「忙しい中、君に逢いに来たんだよ」と口にしながらも嫌がらせ目的でこんな物を探し出し用意する暇はあるんだって、呆れたものだった。

「それは何と無く、嫌です」
「なんでぇ?帝人は甘くて…すっごく、美味しいよ?」
「わざとらしくミカドの部分を強調するのは止めてください。ポッキーの製品名が変わっただけじゃないですか」
「そうだね。でも、帝人君が顔真っ赤にして照れてくれたんだから、用意した甲斐があったよ」
「え、えっ?!」

僕は咄嗟に両手を顔に宛がい、自らの頬に宿る熱を確かめた。
微熱を出しているといっても解熱剤を飲んでいるし、そのせいであるはず無い。それが判っているから余計に焦る。

僕は、何に対して顔を熱くさせているんだ?何に対して――こんなに全身を、熱くさせている?

認めるわけにいかない。認めてしまえばもう自分の気持ちを誤魔化しきれない。
その先に待つのは惨めな結末であると、判っている。

だからこそ彼に何の感情も抱いていないと、このゲームで実証してみせなければいけないのだ。
僕は折原さんが傾けたビニール袋に手を突っ込み、その中から一箱の菓子を選び持ち上げて見せた。

「じゃ、これで」
「へえ…メンズポッキーかあ。それは自分にも男らしい面があると、主張したいせいなのかな?まあ、君くらいの年頃なら背伸びもしたくな…」
「違います」
「ん?じゃあ、なぜそれを選んだのか聞かせて欲しいなぁ?」

ニタニタといじめっ子めいた意地悪な笑みを浮かべる折原さんに、僕はさらりと告げた。

「これ。折原さんが甘すぎなくて、一番好きなんだって言ってたから」
「は…?」
「僕もポッキーの中でこれが一番好きだし。どうせなら、お互いに好きな味選んだ方が良いでしょう?」
「そんな事、俺言ったっけ?」
「ええ」
「よく覚えてるね、君…」

余裕ありげな笑みを浮かべている印象が強い折原さんが、珍しく目を丸くして驚いてみせた。
まるで真昼の猫みたいに目をひん剥いている折原さんに、僕は胸の奥がきゅんと疼く。可愛いだなんて、漠然とそう思った。
もっともっと。この人の違う顔が見てみたい。という、どうしようもない好奇心に駆られ胸が高揚した。

「じゃあ、始めましょうか」

僕はポッキーの箱を開封し中から小袋を取り出しそれを破り、一本のポッキーを摘みあげ口に銜える。
鼻先をくすぐるビターチョコレートの香りが一段と濃厚に感じられたのは、チョコレートが唇の熱で溶け出してしまったせいだ。

「帝人君…なんか、乗り気だねぇ。やっぱ賞金掛ってるから…」
「ん、ふぁあく、ひてくらひゃい。とけひゃい、まふ」

ポッキーを咥えているせいで上手く言葉に出来ないから顎を使って、折原さんを招く仕草を取った。そして表情を伺おうと前屈みになり上目遣いに見上げる。

「なんか、イケナイ事しようとしてる、気にさせられるよ…」
「…?」

きょとんと見上げた先に居る折原さんは、どうも様子がおかしい。
ハハッと苦笑いを浮かべ脱力し形の綺麗な眉を難しくひそめて、ひどく困ったような顔をしている。

「まっ、いっか。案外と帝人君が、度胸のある勝負師だったってことは判ったよ」

額に綺麗な指先を押し当て小さく首を振ると、折原さんは日頃の自分を取り戻したようで見慣れた不敵な笑みを貼り付ける。
違う。僕は度胸なんて欠片もないし、勝負師であるつもりもない。
今にも心臓が爆発しそうなほどドキドキ、バクバクと高鳴って緊張しまくってるし、情報屋として人間を観察する能力に長けた折原さんを相手に勝てる自信も無くて正直恐い。

もし、この勝負が引き分けになったら。もし――彼が先に降参して僕が勝ってしまえば。彼に拒まれたも同然と言えるだろう。
それはそれで、きっと凄くショックなんだと思う。その瞬間を思えば泣きそうになるほど切なかった。

そして折原さんはゆっくりと唇を開き白く綺麗な歯を覗かせ赤く濡れた舌先を、ポッキーの先端に絡めた。
ゾクゾクと悩ましい視線で僕をじっと見つめ揺さぶりをかけながら、カリッと小さくポッキーを噛み砕き再度先端に口を付ける。
折原さんはきっと自分の綺麗な顔が武器になる事を判っていて、使いどころも完璧に把握しているんだろう。タイミング良く注がれてくる彼の色めいた眼差しにそう思った。

さあ、どうぞ?と言わんばかりに小首をかしげる折原さんに、僕はじっと視線を返し続ける。僕はポッキーから唇を動かさず只ひたすらに、彼の出方を待つ。それが僕に出来る唯一の攻略法だった。下手に動いて混乱するよりはマシだ。というか僕から動く余裕も無い。ブルブルと震える心を身体を押さえ込むのが、僕に出来る精一杯だったから。

「余裕あるねぇ。案外こういう遊び…慣れてるのかなぁ?」
「っ、…」

そう告げられて、僕は泣き出しそうになっていた。
余裕があって出方を待っているわけじゃない。ただ動き出すことが出来ないだけだ。
それなのに勝手に余裕があるなんて、遊び慣れてるなんて。そんなひどいこと、思って欲しくない――こんな事を思う自分に、僕は困惑した。誤解されている事が悲しく切ないなんて、もう決定的と呼べるだろう。
複雑に絡んだ理性と本能は僕を混乱の渦に、落とす。もう、どうすればいいかなんて悩む思考すら、まともに働かない。

ただ判るのは――折原さんがゆっくりとポッキーを噛み砕き距離を詰めてくるということ。
折原さんの綺麗な、顔。綺麗な、眸。彼で世界の全てが埋められそうだと思うほど、グッと近づいて。

日頃彼が付ける香水とビターチョコレートの匂いが混ざった、香りの甘さに目が眩みそうになった。
彼の唇から漏れる吐息の熱に、甘美な痺れが全身を駆け巡る。
身悶えするようなその痺れは僕の全身に火をつけて理性さえも、焼いていった。

ああ、あと僅かで唇が、重なる。今の僕に判るのは、只それだけだった。
その瞬間を思い描いた僕は幸福感さえ伴なう甘い痺れに身を委ね、理性が訴えかける警鐘を封じ込めそっと、目を閉じた。

「な、なにやってんの…?!」

突然両肩に負荷が掛ったかと思えば、僕の身体は折原さんの手によって引き剥がされていた。
驚いてパチと目を開けた視線の先にいた折原さんは、ひどく困惑気に眉をひそめ僕と視線が合うなり思いっきり、逸らす。
明らかに動揺していると見て取れる折原さんは、日頃の余裕綽々とした彼じゃない。

「なんで、目とか瞑ちゃってんの?」
「え…」