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[童話風]草原の王様のお話

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それは昔々のお話。
草原には馬を駆り旅をして生きるおおらかな民がおりました。
民には王様がおりました。
王様はある日、皆を集めて言いました。

「皆も承知の通り、我々はずいぶんと数が増えた。他国との交流も増えてきた。そろそろ国を作ろうではないか」

王様は宮殿を建てました。
そこへ異国の使いがやってこられるように、話し合いができるようにと王様は考えたのです。

何人かの使いが草原の国を訪れました。
草原は豊かでした。
異国の使いは皆、草原の豊かな国と、その国の王様の民を愛する心を自分の国で広めました。
王様はそれをたいそう喜んで、いっそう国のために励もうと誓いました。
少ない実りを争って血を流すような戦いをしなくても、めぐる季節に実りを得て暮らしていける草原の国へ、たくさんの民が助けを求めてやってきました。
厳しい北の大地に張り付くようにして生きる民が、圧制にあえぐ南の国の民が、藁にもすがるようにして草原の国へやってくると、王様はそれを手厚く迎え入れました。
自国の民を手離すことになる北や南の国々は、豊かな国と優しい王様を苦々しく思いました。

ある日、王様の元に蝙蝠が現れて言いました。
「ご立派な王様、優しい王様、わたしの王から伝言がございます」
「申してみよ」
と王様は答えました。
蝙蝠は西の国の作法でぐるりと一礼をすると言いました。
「私の国の大事な民を、どうかお返しください。彼らの働きがなくば、我が国は滅んでしまいます。心優しい草原の王よ、民なくば存在し得ない哀れな国に慈悲をかけてはくださりませんか」
西の国からは、高い税金に苦しんだ民がたくさんやってきています。彼らの多くは静かに家畜を飼って暮らしていました。
王様は深く悩みました。
「蝙蝠よ、王にこう伝えなさい。西の国の王よ、民は大地に等しいもの。飢えさせては何も生み出さず枯れ果ててしまいます。民はきっと、税金が軽くなればあなたの元へ戻るでしょう、と」
蝙蝠はにやりと笑ってばか丁寧にお辞儀をしました。
「かしこまりましてございます。わが王に必ずやお伝えいたしましょう」

蝙蝠が去って一週間後に、西の国は草原の国に戦争を仕掛けました。

「税は下げた、民は戻らぬ。草原の国の王よ、民を返すか、領地をよこすのだ。おまえが黙って得た民と同じだけの土地を、私はもらう権利がある」

草原の国にも兵隊はおりました。王様の子供たちはみなその軍隊におりました。それは、盗賊や狼退治に出かける兵隊で、王の子供たちはみなその軍隊におりました。わずかな兵士が西の国との戦争で死んでしまったら、誰が民を守るのでしょう。
王様は悩み、西の国の王と何度も話し合いをして、言われた通りの土地を西の国に渡しました。
民は王様の苦しみを深く理解し、その悲しみを共に悲しみました。
王様はそうして民が共にあってくれることが、王にとって何よりの報酬だと知っていましたから、その心に報いようと思いました。

けれど、一週間の後に、異国の使者がまたやってきました。
北の国から、そして南の国から。
訪れた使者は、口をそろえてこう言いました。

「我らの国からも民が奪われました。民の価値と同じだけの領土をいただきたい、と我が王は申しております」

王様は民を守るために様々なものを差し出すことになりました。
宮殿を、富を、豊かな土地を差し出して、草原の国は小さく貧しく細々と長らえる国になりました。

王様は思いました。
草原の民には宮殿はいらなかったのだと。
それぞれが自由に暮らしていけるだけのわずかな実りを得られればよいのだと王様は言い、草原の国に住まう人々は皆それに頷きました。

草原の国は小さく貧しく、そしてどの国よりも王が幸せな国でありました。

遠く東の国から、使者が訪れるまでは。

***

はるばる海を越えて河をのぼり、もはや宮殿さえ持たない草原の国を訪れた獅子は王様に言いました。
「幸せな王よ、愛される王よ、我が王から伝言がございます」
「東の国の使者よ、ごらんの通り我が国にはもはや差し上げるものはない。それをご承知の上でならばうかがおう」
「もちろん、我が王は存じております、草原の王よ」
獅子は三日月の形の大きな剣を振りかざして王に言いました。
「我が王は、この大地のすべてをいずれ統べるお方。その最初のひとつとして、草原の王の王冠をお望みであります」
そして、王様を頭からばりばりと食らってしまったのでした。

優しい王様が亡くなって、東の国の兵隊が小さな草原の国に攻め込んできました。
民はその恐ろしさにおののき、にげまどい、そして口々に言いました。
「東の国に税を納めよう、東の国の民として認めてもらおう」
「東の国と戦おう、優しい王様の敵を取ろう」
「生まれ故郷へ帰ろう、どれだけ厳しくとも、今の草原の国よりは暮らしやすい」
王様のいなくなった草原の国から、砂がこぼれるように民が減っていきます。
王様の子供と、何人かの民が王様の敵を取ろうと東の国の兵隊と戦い、そして敗れました。
一人目の王子は大勢の兵隊に正面から立ち向かい、二人目の王子は東の国の王宮に忍び込み、どちらも戻ってきませんでした。
敗戦のたびに大地は引き裂かれ、民は逃げまどい、減っていきました。

ああ、草原の王様が愛した何もかもがこぼれ落ちていくその様を、見送るのは最後の子供でありました。
最後の子供は考えました。
東の国と戦うならば、西の国へ、北の国へ、南の国へ、助けを求めよう。
草原の国に残るわずかな兵士では、強大な東の国とは渡り合えないとわかりきっていました。

残り少ない備えの中から、とびきり早い馬を用意して、最後の子供は望みを託して遣いを出しました。
使者は飛ぶように最後の子供の願いを運び、そして戻ってきました。
「返事はどうか」
最後の子供は尋ねました。
「いずれの国も、すぐに助けを送ります、とのことでありました」
いくつもの騎士団が、草原の国を守るために旅立ったと聞いて、最後の子供は喜びました。
愛する家族を失った悲しみは、民を奪われ国を裂かれる痛みと相まって、最後の子供の心を堅く深く傷つけておりました。
最後の子供は、東の国の王と使者を父のように殺して、東の国の民を自由にしてやろうと考えました。
悪い王はそうなる運命なのです。

最後の子供は森へ逃げ、洞窟に隠れながら援軍を待ちました。
ところが、騎士団はいつまでもやってきません。
約束を交わした国々は、草原の国の未来や、優しい王様の敵討ちに興味はなかったのです。
南の国は、約束だけをして援軍を送りませんでした。
北の国は、軍隊に山の手前で戻ってくるように言い含めて援軍を出しました。
西の国は、ならず者や落ちこぼれを集めた一団を騎士団と名付け、団長や副団長にだけ騎士を置いて、形ばかりの援軍を出すことにしました。

ある日、規則正しい大勢の足音が草原の国であった場所にやってきました。
援軍だと思って喜んだ最後の子供は、外へ飛び出しました。
そこにいたのは鋭い視線が仮面から漏れる大きな男と、その後ろに控える東の国の兵隊でした。
大きな男が言いました。
「東の国の王は俺だ。最後の子供よ、お前を捕らえる」