スノードーム
「臨也さん、臨也さん!」
「どうしたの?」
「このスノードーム!」
帝人が青い目をキラキラさせて臨也を手招く。雑貨屋に並べられたスノードームの一つが青い照明に照らされて幻想的に光っていた。
「帝人くんの瞳みたいだねー」
臨也がニヤニヤして言葉を返すと帝人は頬から一気に全体にわたるように顔を赤くして、臨也の胸をポカポカと叩きながら。ばかばかー! と照れを隠すように喚いた。臨也ははいはいとそんな帝人をギュッと抱きしめた。
「これ欲しいの?」
大人しくなった帝人は臨也の腕の中から顔をあげてきれいな笑顔で「いりません」といった。
さっきの感動のしようからいって遠慮をしているだけだと思った臨也は帝人の言葉を無視してそのスノードームを掴みレジに持っていこうとしたが、帝人はそれを険しい目つきで止めた。
「スノードームはいらないです」
「遠慮なんていらないよ」
俺結構お金持ってるんだよ。とウインクしてやると帝人は知ってますと笑った。
「スノードームはいらないので今年の初雪を一緒に見ましょう」
「そんなことでいいのかい?」
「はい」
臨也はそれならと、季節外れに店先に並んだスノードームを棚に置いた。
家についてからふかふかのソファーを楽しむ帝人くんにさっきのスノードームを渡した。
「え? なんでこれ……」
「いらないの?」
「いります! 貰います! 臨也さんありがとございます!」
臨也の手からスノードームを受け取った帝人はそれをひとしきり眺めた。
「これ、いつ買ったんですか?」
「さぁ。いつだろうね?」
笑っていってやると帝人も笑った。
「今年の雪が降るまでこれは封印しておきます。雪が降ったらこれと一緒に見ましょう」
帝人は季節外れのスノードームを箱にしまい。大切そうに抱きしめた。
永遠に飽きることはないと思っていた感情はその感情を忘れさるのと同時に消えていった。
彼女のことを愛おしいと思ったのは6ヶ月程度だったと思う。元来人が好きだった俺にはやはり一人の人間に固執することは難しかった。彼女と同棲を始めて7ヶ月目の11月俺は家に帰らず他の女と朝を迎えた。
早朝に家に帰るとカウンターテーブルにご飯を並べて微動だにしない帝人くんがいた。
(鬱陶しいな)
朝まで俺を待っていた彼女に対して浮かんだ気持ちはそんなもので俺は苛立つ気持ちのままに帝人くんに近寄りそのまま肩を掴んで「別れよう」と告げた。
泣くか、叫ぶか、何か懇願するか……彼女の鬱陶しい姿を思い浮かべて彼女の顔を見ると。いつも通り笑っていた。
「仕方ありませんね。そんな気がしていました」
帝人は力の入っていない臨也の手から逃れ階段を上がる。臨也の部屋に入った彼女は数分後コートとマフラーと少し大きめの鞄を手に臨也の前に現れた。
「部屋にある僕の物は全部捨ててください。今までお世話になりました。さようなら」
帝人はペコリと頭を下げて臨也の前から去った。
「なんなんだあれ……」
俺はなんだか微妙な心境だった。もっと縋ると思った。実は帝人くんも俺以上に俺に飽きていたのかもしれない。
一切手をつけられていないご飯は綺麗にラップをかけられていて、ご飯たちに怨みはないと俺はそれをレンジで温めて一人で食べるには多すぎる量を、食べられるだけ食べた。
後から来た波江に残っている分は食べてもいいと告げた。
「どうしたのよこれ」
「帝人くんが作っていったんだよ」
「そう。帝人が……なら食べるわ」
あれ?確か波江と帝人くんは仲が悪かったと把握していたが……
「波江、帝人くんと仲良くなったの?」
「仲良く……は、なってないわね。でも好きよ。彼女のこと」
一体どういう心境の変化なんだろうか。波江があの弟以外のことを好きだいうなんて何か天変地異の前触れかと思った。
「そうそう、俺、帝人くんと別れたから、それが最後の帝人くんの手料理だよ」
「最後の手料理になるのは貴方だけでしょ」
「は?」
「私は彼女と今後も会うから、帝人の手料理が食べられないのは貴方だけよ」
今までなら羨ましいと思う言葉になんの感情も浮かばずにやっぱり俺は彼女に飽きたんだな。と思った。
12月25日クリスマス。俺は帝人くんとは違う。彼女とは正反対の女と並んで街を歩いていた。別に彼女が好きな訳ではない。ただの趣味の一環だ。夜も共にと誘われたがそんな気分でもなくそのまま家に帰った。
帝人がいなくなってから部屋を掃除する人間がいなくなりあまり使わないと言っても埃がたまっていた。久しぶりに用事のない俺は一人クリスマスの夜に掃除を始めた。
「……」
棚をまさぐると帝人くんと一緒に買った物が色々と出てきた。
なんだか懐かしくなってそれらをジックリ眺める。別れたことに未練はなかったが。なんとなく、彼女は元気で過ごしているのだろうかと彼女が聞いたら怒るであろうことを頭に浮かべた。
「あ、これ……」
棚の奥の方に小ぶりの箱がある。一際埃を被ったそれはいつぞやに買った季節外れのスノードームだった。
それを手にしてふと窓の外を見ると雪がちらついていた。
「初雪……ホワイトクリスマスか珍しいな」
箱を開けてスノードームを窓の脇に置く。
なんだか帝人くんに会いたくなって俺はコートを羽織って外に出た。
久しぶりに会うと思うと胸が高鳴る。しかし断じて恋愛感情ではない。
別れてから一度も帝人くんと会わなかったな……
そんなことを考えているうちに相変わらずボロい帝人くんのアパートに着く、夕方も過ぎたというのに電気のついていない部屋。
帰ってきた帝人くんを驚かしてやろう、そう思ってピッキングして部屋の中に入った。
「あれ……」
開けた部屋には、何もなかった。元々何もない部屋だがそれ以上に何もなかった。生活感がない。彼女の大切にしていたパソコンもない。引っ越したのか……いや、帰ると言ったらここしかないだろ。同棲している間も俺がここの家賃を払ってるの知ってた訳だし。
新しい引越し先を自力で探すのも簡単だが、彼女の親友に連絡をとった方が早いだろうと電話をする。が、何度ならしても連絡がつかなかった。
一体なんなんだ。俺はそのまま家に帰って彼女の情報を探した。
俺と別れてから帝人くんは学校を退学したらしい、ということは今は埼玉の実家に帰っているということか。なぜ突然。
埼玉にまで会いに行くのは面倒だな。とチャットルームを開く。
そういえば……、チャットにもきてないな。
これではまるで彼女がこの世から消えてなくなったみたいではないか。
さよならと言った帝人くんのキレイな笑みが蘇る。なんてあっさりとした別れだったんだろう。あの時は俺に飽きたんだと思った、本当にそれが理由なのか。
気にしだすと止まらなかった。
そういえば、波江は帝人と連絡をとっていると言っていたはず。俺は携帯を取り出して波江に電話をかけた。
出ない。どれだけ鳴らしても波江は電話に出なかった。
何を今更帝人くんに固執しているんだろう……これもそれも全てスノードームのせいだ。
「どうしたの?」
「このスノードーム!」
帝人が青い目をキラキラさせて臨也を手招く。雑貨屋に並べられたスノードームの一つが青い照明に照らされて幻想的に光っていた。
「帝人くんの瞳みたいだねー」
臨也がニヤニヤして言葉を返すと帝人は頬から一気に全体にわたるように顔を赤くして、臨也の胸をポカポカと叩きながら。ばかばかー! と照れを隠すように喚いた。臨也ははいはいとそんな帝人をギュッと抱きしめた。
「これ欲しいの?」
大人しくなった帝人は臨也の腕の中から顔をあげてきれいな笑顔で「いりません」といった。
さっきの感動のしようからいって遠慮をしているだけだと思った臨也は帝人の言葉を無視してそのスノードームを掴みレジに持っていこうとしたが、帝人はそれを険しい目つきで止めた。
「スノードームはいらないです」
「遠慮なんていらないよ」
俺結構お金持ってるんだよ。とウインクしてやると帝人は知ってますと笑った。
「スノードームはいらないので今年の初雪を一緒に見ましょう」
「そんなことでいいのかい?」
「はい」
臨也はそれならと、季節外れに店先に並んだスノードームを棚に置いた。
家についてからふかふかのソファーを楽しむ帝人くんにさっきのスノードームを渡した。
「え? なんでこれ……」
「いらないの?」
「いります! 貰います! 臨也さんありがとございます!」
臨也の手からスノードームを受け取った帝人はそれをひとしきり眺めた。
「これ、いつ買ったんですか?」
「さぁ。いつだろうね?」
笑っていってやると帝人も笑った。
「今年の雪が降るまでこれは封印しておきます。雪が降ったらこれと一緒に見ましょう」
帝人は季節外れのスノードームを箱にしまい。大切そうに抱きしめた。
永遠に飽きることはないと思っていた感情はその感情を忘れさるのと同時に消えていった。
彼女のことを愛おしいと思ったのは6ヶ月程度だったと思う。元来人が好きだった俺にはやはり一人の人間に固執することは難しかった。彼女と同棲を始めて7ヶ月目の11月俺は家に帰らず他の女と朝を迎えた。
早朝に家に帰るとカウンターテーブルにご飯を並べて微動だにしない帝人くんがいた。
(鬱陶しいな)
朝まで俺を待っていた彼女に対して浮かんだ気持ちはそんなもので俺は苛立つ気持ちのままに帝人くんに近寄りそのまま肩を掴んで「別れよう」と告げた。
泣くか、叫ぶか、何か懇願するか……彼女の鬱陶しい姿を思い浮かべて彼女の顔を見ると。いつも通り笑っていた。
「仕方ありませんね。そんな気がしていました」
帝人は力の入っていない臨也の手から逃れ階段を上がる。臨也の部屋に入った彼女は数分後コートとマフラーと少し大きめの鞄を手に臨也の前に現れた。
「部屋にある僕の物は全部捨ててください。今までお世話になりました。さようなら」
帝人はペコリと頭を下げて臨也の前から去った。
「なんなんだあれ……」
俺はなんだか微妙な心境だった。もっと縋ると思った。実は帝人くんも俺以上に俺に飽きていたのかもしれない。
一切手をつけられていないご飯は綺麗にラップをかけられていて、ご飯たちに怨みはないと俺はそれをレンジで温めて一人で食べるには多すぎる量を、食べられるだけ食べた。
後から来た波江に残っている分は食べてもいいと告げた。
「どうしたのよこれ」
「帝人くんが作っていったんだよ」
「そう。帝人が……なら食べるわ」
あれ?確か波江と帝人くんは仲が悪かったと把握していたが……
「波江、帝人くんと仲良くなったの?」
「仲良く……は、なってないわね。でも好きよ。彼女のこと」
一体どういう心境の変化なんだろうか。波江があの弟以外のことを好きだいうなんて何か天変地異の前触れかと思った。
「そうそう、俺、帝人くんと別れたから、それが最後の帝人くんの手料理だよ」
「最後の手料理になるのは貴方だけでしょ」
「は?」
「私は彼女と今後も会うから、帝人の手料理が食べられないのは貴方だけよ」
今までなら羨ましいと思う言葉になんの感情も浮かばずにやっぱり俺は彼女に飽きたんだな。と思った。
12月25日クリスマス。俺は帝人くんとは違う。彼女とは正反対の女と並んで街を歩いていた。別に彼女が好きな訳ではない。ただの趣味の一環だ。夜も共にと誘われたがそんな気分でもなくそのまま家に帰った。
帝人がいなくなってから部屋を掃除する人間がいなくなりあまり使わないと言っても埃がたまっていた。久しぶりに用事のない俺は一人クリスマスの夜に掃除を始めた。
「……」
棚をまさぐると帝人くんと一緒に買った物が色々と出てきた。
なんだか懐かしくなってそれらをジックリ眺める。別れたことに未練はなかったが。なんとなく、彼女は元気で過ごしているのだろうかと彼女が聞いたら怒るであろうことを頭に浮かべた。
「あ、これ……」
棚の奥の方に小ぶりの箱がある。一際埃を被ったそれはいつぞやに買った季節外れのスノードームだった。
それを手にしてふと窓の外を見ると雪がちらついていた。
「初雪……ホワイトクリスマスか珍しいな」
箱を開けてスノードームを窓の脇に置く。
なんだか帝人くんに会いたくなって俺はコートを羽織って外に出た。
久しぶりに会うと思うと胸が高鳴る。しかし断じて恋愛感情ではない。
別れてから一度も帝人くんと会わなかったな……
そんなことを考えているうちに相変わらずボロい帝人くんのアパートに着く、夕方も過ぎたというのに電気のついていない部屋。
帰ってきた帝人くんを驚かしてやろう、そう思ってピッキングして部屋の中に入った。
「あれ……」
開けた部屋には、何もなかった。元々何もない部屋だがそれ以上に何もなかった。生活感がない。彼女の大切にしていたパソコンもない。引っ越したのか……いや、帰ると言ったらここしかないだろ。同棲している間も俺がここの家賃を払ってるの知ってた訳だし。
新しい引越し先を自力で探すのも簡単だが、彼女の親友に連絡をとった方が早いだろうと電話をする。が、何度ならしても連絡がつかなかった。
一体なんなんだ。俺はそのまま家に帰って彼女の情報を探した。
俺と別れてから帝人くんは学校を退学したらしい、ということは今は埼玉の実家に帰っているということか。なぜ突然。
埼玉にまで会いに行くのは面倒だな。とチャットルームを開く。
そういえば……、チャットにもきてないな。
これではまるで彼女がこの世から消えてなくなったみたいではないか。
さよならと言った帝人くんのキレイな笑みが蘇る。なんてあっさりとした別れだったんだろう。あの時は俺に飽きたんだと思った、本当にそれが理由なのか。
気にしだすと止まらなかった。
そういえば、波江は帝人と連絡をとっていると言っていたはず。俺は携帯を取り出して波江に電話をかけた。
出ない。どれだけ鳴らしても波江は電話に出なかった。
何を今更帝人くんに固執しているんだろう……これもそれも全てスノードームのせいだ。