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彼の歌声

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閑散とした公園だった。錆びかけているような遊具が小さな敷地の中に居場所を奪い合うようにしてたっていて、それで遊ぶためか平日の午後から夕方にかけて近所の家からやってきた子どもがぽつりぽつりと遊具を占拠したりするものの、やはり寂しい雰囲気が拭い去れない、どこか取り残されたような心地がする公園だった。
 手洗い場があった。ジャングルジムもあった。ブランコも、地球儀もあった。そして、遊ぶ子どもを親が座って見守るためだろうか、ベンチがあった。

 そこに、彼はいつも座っていた。
 彼、というのは他人行儀かもしれない。そこに、──鏡音レンは、いつも座っていた。


1.


 マスターが作曲するとき。それはすなわち、おれが少しの間、家を空けなければならないということを示す。もちろん、作曲しているときにボーカロイドを傍に置くマスターも居るだろうけれど、おれの家のマスターはそうではなかった。というのも、マスターが言うに、おれがそこらへんの鏡音レンよりも若干子どもっぽい──というか、あわただしいところがあるからなのかもしれない。マスターが作曲をしていると、それが気になって仕方が無くてパソコンの近くやマスターのまわりをうろちょろ歩き回ってしまうのだ。マスターはそれが気になってしょうがないらしい。作曲する際は集中してやりたいんだ。だから作曲している間は外出しておいてほしい、とこの前言われてしまった。それ以降、おれはマスターが作曲している間は外に出かけて暇をつぶしている。マスターは作曲しはじめると2、3時間はぶっつづけでモニターに向かうから、おれが外でつぶす時間も大体そのくらいということになる。

 外に出るのは好きだ。空の青さはいつ見ても違うからぼんやり見ながら歩くだけでも時間はどんどんと過ぎていくし、空気だって毎日違った面を見せる。今日は柔らかい、今日は冷たい、今日は優しい。抽象的な言葉にしか出来ないけれど、おれはそんな空気の色や、空の顔を見るのが好きだった。

 靴が土を擦る音も綺麗だと思う。時折聞こえる鳥の鳴き声も、遠くから聞こえる子供達の歓声も、とても素敵だ。どの音も、おれの心のなかに、ゆっくりゆっくりと溶けていく。外出するたびに心地よい感覚が、おれの中を満たしていく。
作品名:彼の歌声 作家名:卯月央