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緑の森の物語 ファンタジスタ

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妹が生まれた。

しかも俺と同じヤギの俺と同じ黒い髪の女の子。

レツという名前でとても甘いミルクのいいにおいがする。きっと美人になること間違いないくらいカワイイ。

母にも「ヒサノリ。また面倒かけちゃうけどおかあさんを助けてね。」と頼まれた。面倒なんてないっっ。俺と同じヤギだし。しかもお父さんと同じ綺麗な黒髪の巻き毛だし…。何より弟じゃないのがうれしい。実を言うと今の俺にはこの生まれたばかりの妹のほかに、双子の弟がいる。

今は面倒がみきれないということで、幼馴染のクニハルの家に2人とも預けている。俺の弟はどっちも狼だ。二人とも灰色がかった銀色の髪とユキは碧い瞳。ニオウは琥珀色の金の瞳。

まだ小さくやんちゃ盛りなせいか…ちっともじっとしてない。まだ小さいけど鋭い犬歯で、がぶがぶ二人とも噛みついてくるのを見て、父のギロが、「チビどもは、しばらくガブに預けよう。生まれてきたのに、変な噛み傷つけられてもたまらんからな。見てられないし」そう言って、今は、ガブおじさんの家に預けられている。

はっきりいって、父じゃないけど、面倒見ていると疲れるのは確かだ。

嫌いとかじゃないけど、だから…父さんと母が妹か弟が生まれると言ったときも、『絶対次は妹がいいっっ』と必死にお月様にお祈りしたのだ。

そのためか、生まれたのはとてもカワイイ女の子なのがうれしい。…俺の妹。母や父さんにいわれるまでもなく絶対すごくかわいがって面倒みる。そして今日その妹を見にメイおばさんとクニハルが俺の弟たちをつれてくる。

「よっっ、ヒサノリー。妹っっみにきたぜーーーっっなーなーっっどうよっっちゃんとカワイイかー。」またケラケラ笑いつつメイおばさんに頭をはたかれながらいってきた。

クニの奴、機嫌いいなー。久しぶりにおばさんと2人の外出だからか、かなりご機嫌だ。

静かにねっっと言いつつメイおばさんは母のいる寝室へ行ってしまい、ポツンと居間には俺とクニと弟2人残される。アイツ俺のことファザコンってバカにする癖に。自分だって立派なマザコンだ。それに俺の妹にちゃんとカワイイか…っっなんてっっ失礼だ。

俺の妹なんだから可愛いに決まってる。と思いつつ、ふ…っと下をみれば、弟のユキとニオウがクニの足元に2人揃ってもじもじと隠れるようにして覗いている。そういえば、2人とも、いつもなら真っ先に母に抱きつき、俺にじゃれつきと…やかましいくらい騒いでくるのに。今日はずいぶんと大人しい。

「ユキ。ニオウ。どうした。早くこっちにおいで。」と俺は声をかけるが、そう言われても2人とも、さっと顔を隠しまたそろそろとこっちを覗いてくる。

そんな様子をクニがニヤニヤ笑っている。そんな様子になんとなくムッとして「クニハル。お前、ユキとニオウになんかいったのか?」とたずねた。

すると「別にーー。ただ女の子は静かに優しくしないとなー。あんまり騒ぐと死んじゃうんだぜーっていったからかもな。昨日こいつらあんまり煩いからさぁ、ちょっと脅しすぎたかもだけどよ。まあいいじゃん。すぐ忘れるってっっ」とけらけら笑いつつ言いやがった。なんて嘘いうんだ。このバカ。

思わず、ニヤニヤ笑うクニを睨みつつ弟たちに話しかける。「ユキもニオウもクニのいう事は嘘だから真に受けたらだめだぞ。ほらおいで。」と手を2人に差し出す。すると2人とも首をかしげつついってきた。

「兄ちゃ。でも俺達より妹好きなんだ。俺達といると疲れるーっていってたって聞いた。だからニオと話して疲れさせないって決めた」「ん…俺達は邪魔なんじゃもん。兄ちゃ。じゃから俺達できるだけしゃべらないんじゃもん。そしたらまた兄ちゃ俺達好きになってくれるんじゃもん…。」ともじもじしつつ口に手を当てたりしてやはりクニの足の後ろで2人とも、オオカミの耳をヒクヒクと動かして、こしょこしょと隠れたりしている。

どっからそんなこときいたんだか。思わず、ガクリとうなだれたくなる。そして、ギロリと、クニをまた睨むと「その辺は、俺じゃなくてシノブとケンヤの奴がいったんじゃねーかな。あいつら変なところで記憶力いいんだよな。はははは」自分の弟達のせいにしている。

『うそつけっっっシノはともかくケンヤはまだ片言しかしゃべれないじゃないか』と毒づき。とりあえず、はあ…とため息つきつつ、2人の弟を、ちらりと見る。

二人ともバカ…そんなの知るか。というか、お前達だって俺にとってはかわいいんだって。じゃなきゃ面倒なんて見るもんか。どうしよう。でも、クニがいてる前で、なんかそういうの言うの恥ずかしいし…やだなー。

そんなこと考えてたら、バンと扉が開き「おっ…坊主どもかえってたじゃねーかっっよーしっっ来い!」父が仕事から帰ってきた。2人の姿を見るとニコニコ笑いつつ手を伸ばす。そんな父の姿を見て「あっーーー父ちゃだー」「父ちゃーっっただいまーーっっ」とクニの足元に固まってた2人が一斉に父の元に走り抱きつく。二日しか離れてなかった2人ともキャーキャーとえらい騒ぎだ。俺にはあんなに抱きつきもせず、ぐずってたのに、なんて奴らだ。現金すぎる。そんな2人にややむかむかしつつそして横を見ればクニの奴が舌打ちを打っている。

「ちぇっっっあんな言ったのになんだよっっあいつら、ギロ兄貴にあんな抱きつきやがって。くそっっ失敗だ」こちらも不満そうだ。

どうやら、うちのチビたちあんな入れ知恵をしたのは…俺に対してというより父に対して…というのがあったようだが、チビたちには半分しか効いてなかったようだ。ソレを見て、また俺は、はあ…とため息が漏れる。

そんなに父と仲良くなりたいのかよ。俺の父は、昔、北の方で狼族のリーダーをしてたりしたりしてたらしいから、こう言ってはなんだが、とてもかっこいい。俺にとっても自慢の父だ。俺だってこいつ等がいなければ、きっと抱きついてるし…というか。抱きつきたい。こういう時に子供って得だと思う。恥ずかしいとか…そんな感情なしに、素直に抱きつける。そんな自由さが…俺には、年々無くなってる気がする。

だから、クニが憧れるのはとても判る。

でも、そのせいで、余計なことをされるのはハタハタ迷惑だ。

とりあえず、なんとなく、今、この場であの2人に『静かに言ってやらなきゃと思いながら言えないよ。な、呑み込んだ言葉』を言わずにすむのはとても助かる。なんだか笑いたいような悔しいような可笑しな気分だ。

結局父さんに全てもっていかれてしまったけど。そうしていたら、奥からメイおばさんが俺達を呼んだ。妹が目を覚ましたらしい。

妹が生まれた。

近付くとミルクのように甘いにおいがして何もかもが小さくてとてもかわいい。

くわっっと、涙を目じりに滲ませて可愛く欠伸をしている様も、くりくりした金色がかった琥珀の色の目も、とても可愛い。そんな小さな生き物を見て「ちっちゃいぞ。におー。見ろよ。指柔らかい」「ほんとじゃ。柔らかい。父ちゃ、うまそう。舐めてもいい?」そんなことを言って、二人の弟は、涎を出しつつ、ほっぺをつついたり、小さいもみじのような手を触ったりとせわしく瞳をキラキラ輝かせて見ている。

そんな二人の様子を周りの大人は、笑ってるけど。笑い事じゃないよ。