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自分のモノを掴んでいる水谷の手を払い除けてから握り直すと、再び顔を上げる。オレの挙動を見つめていたらしい水谷と目が合ったので口角に少し上向きの力を加えると、それだけで息を呑むのがわかった。見せつけるように舌を伸ばし、そのまま視線を逸らさずに舐め上げると目を細めて自分の口元に手を当てた水谷からうあ……と声が漏れる。
水谷はこの一連の流れが大好きで、そして凄く弱い。大方部内に出回っている田島の兄ちゃんのお宝に影響でも受けたんだろう。夢見がちなこいつらしい。
出来るだけ目を見ながら舌を這わせ続けていると、親がいるって事が頭から飛んでいるんじゃないかってぐらい水谷の息が荒くなってきた。さすがにそろそろマズい気がしてきたし、何より自分も疲れるので適当な所で切り上げて一気に口内に迎えると水谷が長い長い溜息を吐く。
ここから先は体力勝負。歯さえ当てなければ、多少乱暴に扱ってもかえって快楽に繋がるだけだという事は身を以て知っていた。
舌と唇と利き手を駆使して、ようやくそれが硬く膨らむ。いずみ、でる……なんていちいち言わなくても、それぐらいわかってる。
余裕を失った水谷が腰に一際力を入れ、今更逃がさない為なのかオレの髪をキツく掴んでから達した。おそらく昨日あたり一発ヌいてあったんだろう。量がそれほど多くないのがせめてもの救いだ。確か苦みを感じるのは舌の奥の方だっけ……? となるべく味わわないように避けてみても、狭い空間だからすぐに広がってしまう。
髪引っ張っんじゃねーよ、と文句を言おうとしたが、今喋ったら大変な事になるなと目だけ動かし、膝の横のティッシュに手を伸ばした所で本来の目的を思い出した。
……たとえ水谷がそれまでのやり取りを精液と共に記憶から放出してしまっていても、言い出したのは自分だ。
口から唾液その他が零れないように注意しながら萎んだモノを追い出すと、脱力してベッドに仰向けに倒れていた水谷がゆっくり起き上がった。
「いずみ……ありがと」
ね、の言葉と同時に嚥下すると、それに気付いた水谷が飲まなくていいのに! と焦り出す。今までそれを要求してきたのは、お互いに弄り合っている内に水谷のサディスティックな面に火を点けてしまった時だけだったから普段から征服欲の固まりといったわけでは無いらしい。
「……確かに、喉がイガイガする」
机の上に置いてあった、水谷のカーチャンが用意してくれたらしいペットボトルのお茶を勢い良く飲んでからそう告げると、下半身丸出しのまま立ち上がった水谷がオレの方へ足を踏み出した。
途端、降ろしただけで纏い付いていた服に足を取られた水谷がバランスを崩し、両手をバタつかせながら倒れ込んでくる。
このままだと腰を強打すると瞬時に判断したオレは、水谷の体を両腕で抱えながら無我夢中で受け身の体勢を取った。小学生の頃、毎日兄貴の練習台になっていて良かった。初めて心からそう思えた。
「イッ……てー……」
それなりの衝撃はあったがとりあえずオレは痛む箇所が無い事に安心し、それから水谷の様子を伺おうとしたら凄い音がしたけど大丈夫ー? という問い掛けと、部屋のドアを二回ノックする音。
「だっ大丈夫! ちょっと躓いただけ!」
「ならいいけど……。フミキ、ちゃんと部屋片付けなさいよー」
「わかった! わかりました!」
今この瞬間のマヌケな格好ランキングがあったら間違いなく上位に入れる水谷が、首だけ持ち上げて平静を装いながら必死に受け答えをしている姿に噴出しそうになるのを堪えていたら腹筋が攣りそうになった。
部屋の前から人の気配が無くなると、危なかった……と水谷がオレを抱き返そうとする。その腕からすり抜け、身支度をしているとようやくちんこをしまった水谷が今度はギャー! と悲鳴を上げた。
「うるせーなー。何だよ」
「ふ……冬休みの宿題がー!」
オレが置いた時は確かに自立していたキャラメルソースのボトルがさっきの振動で倒れたらしく、先端から少しずつ垂れた中身で机の上には粘度の高そうな液溜まりが出来ていた。そしてそれは、プリント類までべったりと浸食している。その上二度目の騒ぎに駆けつけた水谷のカーチャンに問答無用でドアを開けられたもんだから、惨状を見られた水谷はだからいつも片付けなさいって言ってるでしょ! と説教を食らうハメになった。
キャップを締めなかったオレにも責任はあるんだけど。
罪悪感を抱きつつとりあえずティッシュで拭き取ってやっていると、泉、数学のプリントコピらせて! と水谷が泣きついてくる。
「いーけど、多分先生違うんじゃねー? オレが持ってるの、それじゃねーよ」
「じゃあ意味無いじゃん!」
「だったら最初から同じクラスの奴に頼めよ。三人もいるんだから」
「そっかー。……助けて……キャプテン……っと」
水谷がメールを打つのに夢中になっている間にそっと部屋を出て、靴を履いてからお邪魔しました! と大声で挨拶をした。
わざわざ玄関まで見送りに来てくれた水谷のカーチャンの後ろで泉待ってー! と呼ぶ声が聞こえたけど、気付かない振りをしてドアを閉める。
別にいいだろ。
どーせ、明日もまた会えんだから。