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初めての

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 もっと自分達を取り巻く敵や謎、不安など重要な話が幾らでもあった筈なのに、今そんな話をするのは無粋に感じられたからだ。そして、なによりそんな些細なじゃれあいが、何故かすごく楽しくて嬉しかったからでもあった。
「なんか。いいな、こういうの」
「何? 急に改まって」
 思わず。そのままのことが口から零れていた。きょとんと、その大きな目を瞬かせてタクトが聞き返してくる。
「僕もワコも、個人のものは勿論、学校行事であろうと旅行には無縁だったからね。友達とこうやって夜を過ごすなんてこと今までなかったからさ」
 余計なことを言ったなと後悔した時は遅かった。制御できない気持ちは、誰にも見せなかった弱い部分を顕わにしてしまっていた。
「小さい時から、泊りがけだとワコの禊や儀式の支障になるからと参加すること自体を諦めていたんだ。僕もそれに付き合って。まさか、出ようとしても出してもらえなかったんだとは知らずにね」
 思えば。それがタクトが見抜いていた壁の発端なのかもしれない。この島の呪縛から抗っていくことを諦めたことはなかったが、遠出の度に自分達をおいて親密になっていくクラスメート達に疎外感を覚えたことがなかったといえば嘘になる。
「……」
 タクトが、何かを言いかけて口をつぐむ。スガタとワコと、二人の過去を想って痛んでくれているのだろう。そうしかけて躊躇っているのかもしれない。それもそうだろう、この島に囚われているという閉塞感を、そう簡単に理解できる筈がないのだから。
 ただ、それでもタクトには知って欲しかったのだ。スガタ達を島に縛り付けているサイバディとその封印。それを狙う綺羅星十字団。他の誰にもない過酷な運命を共に分かち合える初めての同性の仲間となった彼に。
「つまらないことを言ったな。悪い、忘れてくれ」
 それでも。その運命が故に彼と親密になれたのだから、それで十分に今の自分に満足できる。そう続けようとしたスガタの両肩にタクトが手を置いた。力の込められた強い眼差しに、言葉が出なくなる。
「そんな事言うなよ」
 彼らしくない、低く抑えられた真剣な声音に目を見張る。それよりも、大きな瞳が凛と据えられ、内なる炎を映しているかのように輝いているから、見惚れてしまった。
「お前が戦ってきた証だろ。そんな事言うなよ」
 室内なのに。風が吹き抜けた気がした。まるであの夕日の丘でのように。
 彼は、もはやワコの為ではなくスガタ自身の為にも怒ってくれているのだ。スガタは、自身を卑下してしまったことを恥じた。そして、それ以上に何にも変えがたい友人を得たのだという実感に喜び打ち震えた。
 絶句のスガタをどう解釈したのか。タクトは怒りを納め、何かを思案する顔になった。そして、何かを閃いたのか、ぱっと笑顔になる。
「そうだなぁ。あ、じゃあこういうのはどうだ? スガタは僕のために、『初めて』をとっといてくれてたってのは」
「は?」
 今度は別の意味で絶句だ。意味が解らない。
「人工呼吸がキスに含まれるかはまだ保留として。人工呼吸自体初めてだったんだから、ワコに僕の初めての人工呼吸は済まされちゃったことになるだろう?」
 だろう? と言われても、やはり意味が解らない。怪訝に首を傾げるスガタに慌てたタクトが言葉を続ける。
「えっと、僕の人工呼吸『初めて』はワコがとったから、僕はスガタのお泊り『初めて』をもらう。これでバランスが取れるだろ?」
 やはり、おかしな理論だとは想うが。しかし、彼なりの気遣いらしい。
「取ったら取り返すってこと? タクト……君って、本当にありえない」
 小学生のようだと思わず笑い出したスガタに、何故か馬鹿にされている筈のタクトまでにこにこしている。
「よし、そうと決まったら、一緒にお風呂だ。そして、枕投げ!」
 タクトが手をとり、スガタを急かす。彼の中では、お泊りとはそういうものらしい。どうでもいいことが楽しくて、スガタはくすくす笑い続けた。スガタが笑うとタクトも笑う。笑うタクトが可愛くて姿はますます笑った。こんなこと初めてだった。
「わかったよ、タクト」
 ああ。もうどうしようもなく君が可愛い。
作品名:初めての 作家名:hina