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路地裏の宇宙少年

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聞き覚えのある声に起き上がらずに瞳だけ動かすと視界の隅にカノンが見えた。彼の背後に映る仕切りで、ここがまだ学校なのだと気付く。いつの間に眠ってしまったのだろうか。カノンが心配そうに自分の顔を覗きこんできて、平気だと答える。
「よかったー、体調悪くなったのかと思って」
「そんなにやわじゃない」
それでも体のあちこちがいたいのは、きっと彼と争ったせいだろうか。昔ならばこの程度試合ではいつものことだったはずなのに。気付けば彼の顔にもいくつか傷があって、少しだけ申し訳ない気分になる。だがそれがわかったのかカノンは自分の傷に触れて、平気だと笑う。彼の声以外に物音はなく、たまに壁の空調から吐き出される風音が響いた。
「なあ、鬼道」
先ほどまでの笑みから急な真面目な顔つきになって、ベッドの脇から彼は少し身を乗り出すようにして近づいた。何を言い出すのだろうかと彼の顔を見つめる。
「サッカーやらねえ?」
「お前、もう忘れたのか」
呆れたような声に、カノンはすぐに違うと付け加えた。
「そうじゃなくて、ピットクルーになってくれないか」
目が合って、思わず逸らした。彼の発言が予想外で、どう答えればいいのかわからない。カノンは相変わらず自分の返答を待つかのように自分の顔を見つめていた。こういうときに限って部屋には他に誰もいないせいで自分が答える以外に前に進む方法が見つからない。窓の外はすでに雨もやんでいて、雲の合間から降り注いだ光がまだ水溜りの残るグラウンドを明るくしていた。窓の外とは対照的に、自分を取り囲む空気は少し重い。

「一緒に、サッカーやろうぜ」
一度もカノンは目を逸らさなかった。きっと彼なら任せられると思ったのはほとんど直感だ。けれども彼はおそらく自分よりもサッカーを知っている。そして誰よりもサッカーのことが好きだとわかっていた。もちろん自分も負ける気はしないが。少し戸惑うような色を帯びていた瞳が再びカノンを見つめる。鳶色の目は光を反射して潤んでいるようにも見えた。
「…ああ、その代わり絶対勝つ」
カノンの顔が満面の笑みに変わった。



その夜、何度も見ていた夢を久しぶりに見た。
自分を照らすスタジアムの照明。
自分に向けられた多くの歓声は空気を震えさせて、それが伝わるたびに自分の中の神経が一局に集中して頭が冴え渡る。昔ならなんとも体験した光景だったはずなのに、サッカーを離れて余計に夢に見るようになった。
いつもなら自分がフィールドの上に立っていたはずなのに、そこにいたのはカノンだった。
自分は少し離れたピットで彼が注目されるのを見つめている。
その彼が、自分が見ていることに気付いて大きく手を振った。それに小さく手を振り返すと、彼は満足そうに笑って自分のほうに駆け寄ってくる。
片手を軽く上げていると、勢いをつけて走ってきた彼が自分の手を出して強くタッチした。

二人の手がぶつかる音がやけに響いて、そこで夢は真っ白に塗りつぶされた。

 了
作品名:路地裏の宇宙少年 作家名:ナギーニョ