夢の旅人
言い終わるが早いか彼の指は一気に中へと進んで、悲鳴すら上げれずに息を止める。一度奥まで到達したそれは一度引き抜かれて、何度も中を犯した。繰り返すたびに痛みと熱に引き摺られそうになる。断続的に響く悲鳴が踊り場に響いた。外の雷は勢いを増して、薄暗い二人をたまに眩しく照らす。しかしそれに意識を向ける余裕もなく、彼の熱が直接流れ込んできてその波に意識は飲みこまれた。
「おい、鬼道…?」
雷の音が、ずいぶん遠くに聞こえた。
***
ふと目を覚ますと、すぐ目の前に彼の顔があって驚く。だが彼の寝顔はとても間抜けに見えて、思わず小さく笑った。他人の寝顔などそうそう見る機会はないから、きっと彼くらいだろう。リネンの匂いが、校内だと教えてくれる。いつの間にか濡れた制服は乾いた別の服に取り替えられていた。彼が目覚めないように起きると、ベッドを降りる。
「あら、起きたの」
そこにいたのは保健担当ではなく理事長の孫だった。同じクラスなので顔なじみではあるが、あまり会話した記憶はなかった。理事長にいわせると自分の遠縁に当たるらしいが、先祖について詳しく考えたことはないからどういう繋がりになるのかは知らない。
「驚いたわよ、彼があなたを抱えてびしょ濡れで来るんだもの」
「担当は」
「会議」
なんとなくこれまでの流れがわかって、小さく息を吐いた。彼女はそれ以上何も言わずに、再びそれまで読んでいた本に目を落とす。さして自分に対して興味がない様子なのは今に始まったことではない。窓の外に目を移すとすでに雷は跡形もなく去っていて、小さな雨が窓ガラスを叩いていた。
「ああ、そういえば」
急に彼女は本に栞を入れて閉じると立ち上がった。そのまま一直線に数歩進んで、机の上に置かれたゴーグルを取ると彼の手に乗せた。
「これ、必要なんでしょ」
きれいに水分をふき取られたゴーグルが天井の照明を受けて光る。彼女は椅子の足元に立て掛けたカバンに本を入れると、それを持ち上げて再び一直線に出入り口に向かう。
「じゃあ、私は帰るからあとよろしく」
そういうと音もなく扉を閉めた。廊下を歩く靴音が遠ざかっていく。一人残されて、窓の外を見るとまだ小雨がやむにはしばらく時間がかかりそうだった。
「…まあ、いいか」
彼が眠るベッドの横に立って再び入ろうとしたが、急にその手を止める。わざわざ一緒に寝る必要などないことに気付いて、きれいに整えられた隣のベッドに入った。横になった途端に急に眠気に誘われて目を閉じると、小雨の音が心地よく響いていた。
了