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おやすみなさい

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私の愛を否定するあの子がとても嫌いだった。
 数に頼るなんて言って携帯を掲げ、私の誠二への愛を踏みにじっていった彼女が大嫌いだった。
 彼女に出会ってから1年と少しが経った頃、私の雇い主の折原臨也が彼女、竜ヶ峰帝人を連れてきた。
「俺、帝人くんと付き合うことにしたんだ」
 竜ヶ峰を抱きしめながら、まるで初めてできた恋人を兄妹に紹介するように臨也は告げてきた。
 最低だ。そう思ったが言っても何も変わらないと、私は何も答えずにパソコンに向かった。

 それからというもの、竜ヶ峰は何日とおかずこの事務所に現れるようになった。
 臨也と竜ヶ峰の恋人どうしのあれこれを見せ付けられるのかと思ったが。意外にも彼女はそれを否定し続けた。
 その代わりと、臨也の仕事を手伝うようになった。仕事が重なったときに彼女と会話をしなければいけない。
 同じ空間にいるだけでも嫌なのに、普通に会話をしなければいけない現状に辟易とした。

 私がそれに気付いたのは、きっと私だったからだと思う。
 私は彼女、竜ヶ峰帝人が大嫌いだ。嫌いな人間のことは好きな人間と同じくらいに無意識に目で追ってしまうものなのだろう。そう言うと臨也も同じかもしれないが。恋は人を盲目にさせる。だから冷静な眼で彼女を視認していたのは私だけだったと思う。

「波江さんコーヒー置いておきますね」
 臨也がいない日、2人きりで作業していると竜ヶ峰は笑顔で机の隅にコーヒーを置いた。
 話すなら今しかない。思えば行動は早い。
「竜ヶ峰。聞きたい事があるわ」
 竜ヶ峰は驚きに眼を見開いたがそれも一瞬ですぐになんですか?と問い返してきた。
「貴方、何かあるでしょう」
「何か? ……何もないと思いますが」
 彼女は誤魔化すように笑って私から離れようとした。
 私は無意識に彼女の腕を掴んでそれを阻止する。
「此処最近、疲れた顔をしているわね。顔に出るくらい疲労しているなら休んでしまいなさい。仮にもアイツの恋人なんだから断られないわよ」
「波江さん……」
 なんとも言えない表情をしていた。泣きそうな、それでいて嬉しそうな、複雑な顔だった。
 竜ヶ峰は軽く息を吐いて、できるだけ長い間臨也さんと一緒にいたいんです。と更に泣きそうになりながら言った。
 言い回しがあまりにおかしくて何となくだが分かってしまう。
 まるで期限があるのだと。あと少ししか一緒にいられないのだと。明確には言っていないが、表情と声色とその言葉が竜ヶ峰帝人には時間がないと如実に語っていた。
「そう。時間がないのね」
「そうですね。時間はきっと、もう、あまりないです」
 そう言いながら竜ヶ峰は笑った。この子供は愛というものを理解しているんだと思った。そう思うとたまらなく愛おしくなった。衝動のままに自分より背の低い竜ヶ峰を抱きしめて帝人と、彼女の名を初めて口にした。
「波江さん?」
「私も共にいていいのかしら? 貴方がいなくなってしまうまで」
 帝人はクスクス笑って波江の背中に手を回した。
「おかしな人ですね。波江さんは僕のこと、嫌いだったんじゃないですか?」
「愛と憎悪は表裏一体よ」
 帝人の言う通り。私は竜ヶ峰帝人が大嫌いだった、だけど、臨也のお蔭である程度彼女を知れてしまう時を一緒に過ごしてしまった。誠二以上に愛する事は難しいかもしれない。それでも、懸命に生きる彼女にどうか幸せであってほしいと願うくらいには帝人のことを好きになっていた。

 この感情を臨也には知られたくなかった。理由はいろいろあるが、とにかく、知られたくはない。
 あの時から臨也がいない所では帝人にできるだけ優しくした。愛を伝えた。
 それに帝人は答えてはくれないがそれで良かった。だって、彼女が幸せそうに笑うから。
 僕は幸せですと笑うから。この子を独占できなくてもそれでもいいと思うくらい幸せそうだから。
 穏やかな愛だった。

 しかし、私は見てしまう。
 10月の半ば知らない女とホテルへ入る臨也を。
 また仕事かと思った。帝人をあの拾い事務所に一人残して仕事かと。
 仕方ないと思いながらも怒りは収まらなかった。それと同時にあの子を一人にしてはおけないと思った。
 事務所に向かう。今日はどうせ臨也は帰ってこないのだから私が泊まっても問題はないだずだ。
 オートロックの扉を鍵を使ってあける。私が扉を開けると小さな足音が聞こえた。
「おかえりなさい! ……あれ? 波江さん、何か忘れ物ですか?」
 エプロンをつけた帝人は首を僅かに傾けながら私を出迎えた。正確には臨也を出迎えようとしたのだがこんな可愛いらし帝人を見ればそんな事実は頭の中で簡単に隠蔽できた。
「ただいま」
 呆ける帝人をそのまま抱きしめる。
「えっと、波江さん……どうしちゃったんですか?」
「今日は帝人と一緒にいたいわ」
「……そんな……臨也さん、帰ってきちゃうので……」
 柔く身体を押し返されるがそれに逆らうように私は帝人を一層強く抱きしめた。
「アイツは帰ってこないわ」
「嘘ですよ。今日はなんの連絡も入ってませんから」
「連絡より確かよ。私はこの目で見たんだから」
「……」
「帝人?」
 少し身体を離して顔を覗き込むと、完全に表情を無くした彼女がそこにいた。
「浮気ですか?」
「浮気か……は、分からないわね。仕事かもしれないわよ。急に入って帝人に連絡する暇がないのかもしれないわね」
 感情を持たない顔に焦って、私はしたくもない弁解をした。恋敵をフォローしてどうするのよ。
 でもその甲斐あってか帝人はいつもの笑みを戻して私の手を引いた。
「波江さん。僕の料理食べてくれますか?」
 悪戯っ子のように私をカウンター席まで導く帝人に胸が高鳴る。生まれて初めて折原臨也に感謝した。
「頂けるのなら頂くわ」
「せっかく臨也さんの好物作ったんですけど……帰ってこない臨也さんが悪いんですからね。2人で食べちゃいましょう!」
 ふふっと笑って帝人は私に箸を渡す。私は手を合わせて小声でいただきますといった。帝人はそれに嬉しそうに召し上がれ。と返してくれた。まるで新婚さんのようではないか。私は幸せな気持ちのまま帝人が作ったご飯に箸をつけた。
 ゆっくりと咀嚼する。どの料理も想像以上に美味しかった。
 ご馳走様と言えば、帝人はどういたしましてと嬉しそうに笑った。
 2人で食器を洗って、沸いた湯に順番につかる。そのまま1つしかないというベッドに2人で入った。
「これは浮気みたいね」
「違いますよ。波江さんはお姉さんですから」
 そう言って帝人は擦り寄ってきた。こんな可愛い妹なら大歓迎だ。
 
 朝また2人でご飯を食べた。案の定臨也は帰ってきていなかった。
 朝食を終えると帝人は来良の制服に着替え行って来ますと出て行った。
 少し躊躇いながらも笑顔の彼女に行ってらっしゃいと私は返した。
 幸せだ。普段ならなんともない挨拶をあの子と交わすだけで、とても幸せな気分になる。正に、恋をしている。私は竜ヶ峰帝人に恋をしている。
 そんな幸せな空気をぶち壊すように臨也が帰ってきた。
 無言で扉を開け、無言でPCの前に座る。その顔は仕事をしてきた人間の顔ではなかった。
「臨也」
「なっ、波江さん!?」
作品名:おやすみなさい 作家名:mario