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空 宙 烙 華

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眼前に迫る海。回転する空。
海が近くなる、空が遠くなる、墜ちていく。

もう声は聞こえない。
自分は、あと何度彼らが散るもの見送るのだろうか?


***

生まれた時から知っていること。

ひとつ。
自分は九七式艦上攻撃機という名の兵器である、ということ。

ひとつ。
自分は戦争の道具である、ということ。

ひとつ。
人の命令は絶対である、ということ。


そして。
自分は、人ではないということ。


***


秋晴れの空に、目を細めた。
久しぶりの休暇。出かけに九に捕まった時は、正直肝が冷えた。
「どこに行くんだ?」という興味深々な言葉に「古書店」と答えられた自分は、かなり嘘が上手くなったと思う。言った途端に嫌そうな顔をされた。
「九こそどこに行くの?」
靴箱から革靴を出している九九に問いかけられると「戦艦宿舎。夕飯は食うから」とだけ言って駆けて行った。せめてこちらの返答くらい聞いてくれたっていいと思う。その最後の言葉になんとも言えない気持ちになったが、考えるのはやめた。
自分の靴箱から靴を出す。土張りの玄関に落とすと、踵が当たって音がした。
最近、九はよく戦艦宿舎に通っている。
革靴に足を通した。自分はどうも、この長靴みたいな革靴が苦手だ。
(霧島さんかな?また、迷惑をかけてないといいけど…)
言って聞く九ではないから。たぶん。心配するだけ無駄だ。
爪先を鳴らす。やっぱりこの靴は窮屈だと思う。
屈んで足元に置いていた鞄を取る。見上げたときに、丁度零の靴箱が目に入った。空っぽの靴箱が、本人の不在を主張している。少し前から、休みになると零はいつもいなかった。
引き戸を開けると、青い空が飛び込んできた。いつも見てるけど、地上から見る空は少しだけ優しい。扉を閉めて「行ってきます」と小さく言葉を落とした。
自分と。九と。零と。
艦上トリオなんて言われて、同じ屋根の下に暮らしているけれど。昔より一緒にいる時間は極端に減った。
寂しいとは思うけど、お互いに、言えない大事なものが増えたのだと思った。



***


「もうっ!酒臭い!何なのこの部屋!」

勝手よろしく部屋に上がり込むと、部屋の異様な酒気に眩暈がしそうになった。
毛布に包まる家主を飛び越えて、窓を開けた。ガタガタと音が鳴る。桟に埃が積もっていた。
「……寒い…七…」
「もう昼!もう起きて!洗うから、さっさと起きて!」
毛布をひっぺ返そうとすると抵抗された。視線すら向けないくせに、指が毛布を掴んで離さない。踏んでやろうと片足を上げたら、それを見越したかのような動きで引きずり込まれた。
「…っあ、」
体勢を立て直す暇もない。気づいたときにはもう隼の上に倒れ込んでいた。
少しだけ見える首筋。隼の匂いに混じって、何だか嫌な匂いがした。
「…七、重い…」
「もー…。誰のせい?その寝汚い癖なんとかしてよ」
力負けするなんて、恥ずかしくて死にそうだ。指からなんとか毛布を解放すると、力ずくで剥がした。
気だるげに隼が起き上がる。ある程度予想はしてたけど、予想通り過ぎてため息が出た。
「何時まで飲んでたの?」
井戸水を汲んでやると、無言で一気に飲み干された。
「……ケイを連れ戻そうとしたところまでは覚えてんだけど…」
酒場の女主人に妙に気に入られて。酒を注がれたあとは覚えていないらしい。助けようとして、逆に自分が潰されたんだろう。視界に入った紙切れを見て、そう思った。
「…俺…どうやって帰ったんだ…」
記憶を辿り始めた隼の目の前に、紙切れを突きつけてやった。きれいな字で「貸しにしておきます」と書かれている。
名前なんてなくても、誰だかすぐ分かる。見たとたんに、苦い顔をして頭を抱えた。
「隼ってさぁ…あんまり空気読めないよね」
明日…会いたくねぇ…。なんて呟いている隼に、そう言ってやった。そしたら、「…あ?」って訝しげな目線を向けられた。
向けられたけど、無視。これくらいは、言ってもいいと思う。
「んーん。なんでもない」
そう言って立ち上がる。やるべきことをやらないと、自分が来た意味を忘れそうだ。
「とりあえず掃除しちゃうから。水浴びでもしてきなよ、隼頑丈だから大丈夫でしょ。」
勝手知ったる他人の部屋。手拭いと着替えを投げつけてやった。
文句を言いたそうな隼を、戸まで押し出す。
「邪魔だから。一刻は戻ってこないで」
反論は許さず。ぴしゃりと引き戸を閉めた。
作品名:空 宙 烙 華 作家名:呉葉