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【太妹】好きの代わりに馬鹿と笑って

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「へえー。よく、ご存知で」

暫く口を閉ざしていた彼から怒気混じりの肯定の応えが返り、更に心の臓の痛みは増す。
これが、事実。これが、罰だ。
太子はグッ、と拳を握りしめて足元を見つめた。

「そうですよ。僕は男同士なんて、死んでも御免です。あんたの馬鹿騒ぎにもホトホト迷惑してます」
「……っ」
「何にも分かって無いあんたも嫌いです」
「ごめん…」
「そんな言葉で済むと思ってるんですか?」
「全然…」

願ってはいるけど。

「ったく、本当に馬鹿なお人だ」

やれやれと首を振る彼に、返す言葉も無く俯き続けていた太子だったが、足音が近付き面を上げた。呆れて此の場を去られるのではと危ぶんだが、それも杞憂だったようで、妹子は自分を見上げて苦笑していた。

「何で、笑って…」
「あんたが馬鹿だから」
「…馬鹿馬鹿と何度も言うな」
「あれ、拗ねました?」

まだまだ子供なんだからと笑われ、罵詈雑言が降ると予想していただけにホッとしたが、どのような態度を取ればよいか分からず、ふいと眼を逸らす。

「恨まれてる者の前で、そんな風に無防備では命がいくつあっても足りませんよ」

窘めるような口調で言われ、おずおずと目線を合わせれば、其れで良いと云う風に微笑まれる。

「怒って、ないのか?」
「怒って、いましたよ」
「今は? 殴らないのか? 怒らないのか?」
「殴って欲しいんですか? 変な趣味をお持ちなんですね。悪いけど、その嗜好には僕は付いていけませんよ」
「そ、そういうんじゃ」
「無論、殴ってやろうとか思ってましたよ」

軽く怒気が含まれる言い方に、ぴくり、と肩を震わせた。その様に苦笑いをしつつ、妹子はゆっくりと太子の頬に手を伸ばし、指の腹で雫を拭った。

「でも、どうでも良くなりました」
「何で…」
「理由、聞けましたし」
「理由?」
「そう。あんたが、何で僕を欲しいなんて言ったかの、理由です。太子、言ってくれなかったじゃないですか」
「好きだからに決まってるだろうが」
「ほんっと馬鹿ですね。あんた、さっき自分が偉いとかなんとか言ったじゃないですか。何で肝心な所で身分を忘れるんですか。それなら、枷なんぞ誰でもいいし、無駄にあんたの事だから裏で何やらの事に利用したいからだとか、そういう事いくらでも考えられるでしょうが」
「そうなの?」
「本当、死んでください…」

がっくりと肩を落とした妹子の背を眺めつつ、言われた事を反芻してみた。
彼の云わんとする意味は微塵も理解が及ばないが、簡単に言えば彼も自分の事で悩んでいてくれたと云う事だろう。それで、理由を聞かないうちは怒っていたけど、今は理由が分かったから怒って無くて。

「なあ、それって妹子」
「はい?」
「私は、妹子が好きでもいいってことか?」
「!!」

途端、火が付いた様に彼の顔が紅くなり、今までの様態が嘘のようにうろたえ始めた。

「そ、れはっ! そのっ」
「私の事は、嫌いか?」
「……別に」
「男同士は死ぬほど嫌だってのは嘘か?」
「…嘘じゃ、ないですよ。僕は、男と寝る位なら舌噛んで死にます。それでも、…それでも、あ、あんたとは寝たんですよ。それくらい、分かれよ馬鹿!」
「本当か!?」

がしり、と両肩を押さえれば、視線から逃げる様に首を逸らせながらも僅かに縦に首が振られた。

「い、もごおおお~」

折角拭って貰った目尻に、再度涙が浮かんできたのを見て仕様の無いと笑われる。

「全く、でっかい子供ですね」
「本当だな? もう、手放さんぞ? いいんだな?」
「はいはい」
「嫌だって言っても聞かんぞ?」
「ええ」
「うざいくらいに、引っ付くぞ」
「本当にうざそうですね」
「しょっちゅう、ピクニックに連れてくぞ?」
「仕事の支障が出ない位にして下さい」
「口も吸うぞ? 昨日みたいに閨にも呼ぶぞ?」
「……程々にしてください」

あとな、それから。それから!

「妹子!」

「何ですか?」

「大好きだ!!」

彼は、一度も好きとは言ってくれなかったけど。

「馬鹿」

いつも、そう言っては紅らんだ顔で笑うのだ。