視線
紅は雷が苦手だった。弟の美しさが苦手だった。
紅を戸惑わせるのは、彼の端整な造形だけでなく、薄い色をした髪の眩しい光の反射や、透き通った瞳の奥にある深い色合いだった。「砂漠が綺麗なのは、どこかに井戸を隠しているからだ」という童話の一説から、紅は理解する。彼の美しい姿形の奥には、それ以上に大切な宝物のような何かがあるに違いない。それが彼の美しさをさらに輝かせているのだ。
その宝物を、自分の一つ上の兄に向けられた彼の視線の中に見つけたとき、紅は初めて眠れない夜を経験した。宝物は時を経ても色褪せることなく、二人の間で大切に守られ、そのたびに弟は美しくなった。紅は胸の痛みにあらゆる他の理由をつけながら、それを見つめ続けていた。
紅は雷と二人きりになることが苦手だった。
他の兄弟がいる前では普通に話し、冗談を言ったり喧嘩をすることもあるが、美しい弟とその場に残されるだけで紅は親を見失った子供のようにうろたえた。
けれど、苦手ではあったが、嫌いではなかった。自分が口を閉じると弟もそれに倣い、訪れる沈黙は意外に穏やかなもので、それまで紅は静寂(しじま)がそんなにも心地よいものだと知らなかった。
雷は視線を遠くにやり、物思いにふけるように頬杖をつく。長い金髪がさらりと肩からこぼれて目映い光を放つ。瞬きを繰り返す睫毛さえ小さな光を弾いて、きらきらと輝いていた。今生まれたばかりの獣でもその輝きを綺麗だと思うに違いない。
けれど、雷は昔から美しかったが、それは人に痛みを与えるようなものではなかったはずだ。
手持ち無沙汰に時計を気にするふりを忘れて、紅は雷の横顔に見入っていた。光はどこから来るのだろう。眩しさに目を細めると、切なげな顔になるんだとマスターは口元をほころばせて言っていた。あんなに優しく笑う人を他に知らない。自分も今そんな顔をしているのだろうか。
不意に彼の、気高く美しい色をした瞳がこちらを向き、紅は息が止まりそうになった。胸の内を見透かされたようで耳まで熱くなったが、それは雷も同じことだったらしい。気まずげに視線を揺らし、それから負けじと睨みつけてくる。照れているのだ。
紅を戸惑わせるのは、彼の端整な造形だけでなく、薄い色をした髪の眩しい光の反射や、透き通った瞳の奥にある深い色合いだった。「砂漠が綺麗なのは、どこかに井戸を隠しているからだ」という童話の一説から、紅は理解する。彼の美しい姿形の奥には、それ以上に大切な宝物のような何かがあるに違いない。それが彼の美しさをさらに輝かせているのだ。
その宝物を、自分の一つ上の兄に向けられた彼の視線の中に見つけたとき、紅は初めて眠れない夜を経験した。宝物は時を経ても色褪せることなく、二人の間で大切に守られ、そのたびに弟は美しくなった。紅は胸の痛みにあらゆる他の理由をつけながら、それを見つめ続けていた。
紅は雷と二人きりになることが苦手だった。
他の兄弟がいる前では普通に話し、冗談を言ったり喧嘩をすることもあるが、美しい弟とその場に残されるだけで紅は親を見失った子供のようにうろたえた。
けれど、苦手ではあったが、嫌いではなかった。自分が口を閉じると弟もそれに倣い、訪れる沈黙は意外に穏やかなもので、それまで紅は静寂(しじま)がそんなにも心地よいものだと知らなかった。
雷は視線を遠くにやり、物思いにふけるように頬杖をつく。長い金髪がさらりと肩からこぼれて目映い光を放つ。瞬きを繰り返す睫毛さえ小さな光を弾いて、きらきらと輝いていた。今生まれたばかりの獣でもその輝きを綺麗だと思うに違いない。
けれど、雷は昔から美しかったが、それは人に痛みを与えるようなものではなかったはずだ。
手持ち無沙汰に時計を気にするふりを忘れて、紅は雷の横顔に見入っていた。光はどこから来るのだろう。眩しさに目を細めると、切なげな顔になるんだとマスターは口元をほころばせて言っていた。あんなに優しく笑う人を他に知らない。自分も今そんな顔をしているのだろうか。
不意に彼の、気高く美しい色をした瞳がこちらを向き、紅は息が止まりそうになった。胸の内を見透かされたようで耳まで熱くなったが、それは雷も同じことだったらしい。気まずげに視線を揺らし、それから負けじと睨みつけてくる。照れているのだ。