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プリムローズ

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「イタリアちゃーん!」
 突然ふってきた特徴のある声と一緒に、僕のまだ小さい身体はひょいと高く抱き上げられました。

「んー!俺の天使!!相変わらず可愛いなあ!!癒されるぜー」
 抱っこした僕の頭を、犬やなにかにするみたいにわしわし撫でては頬ずりしてくるのは、遠い北の国のプロイセンでした。
「ほれ、いつものお土産だぜ」
 ころんと口の中になにか投げ入れられ、幸せな甘い味がひろがります。
「ふぁ、焼き菓子だ!」
「ケセセっ美味えだろ。今フランドルで人気なんだってよ」
 最近羽振りが良い彼は、来るたびにいつも珍しいお菓子をお土産にくれるのです。
「美味しい!幸せ!ありがとうプロイセン」
「いいってことよ!あのドケチ坊っちゃん、どうせろくなもん食わしてくれねえんだろ。いっぱい食って早く大きくなれよイタリアちゃん!」
 なんせ男は強くなくちゃだからなー!とふんぞり返って笑うプロイセンは、とても喧嘩の強い国です。
 色んな国と戦ったり出し抜いたりして着々と大きくなり、先日とうとう王国の称号を手に入れたそうです。着ているものも、会うたび豪華になっていきます。

「な、なあイタリアちゃん。ところでよー…」
 プロイセンが目をうろうろさせながら声をひそめました。
 いつも無駄に自信満々なプロイセンがこんな顔をする時の用事はたいてい決まっています。
「こ、これってさ。その……どうかな?どう思う?」
「わああ凄い…!綺麗!!」
 プロイセンが大事そうに懐から取り出したのはキラキラ輝く金の髪飾りでした。真ん中には親指ぐらいの大きなエメラルドが埋めこまれています。
 いつの間にかこんなものまで手に入れる程になったんだ…と思わずびっくりして、僕は目の前の気の良い軍人――ではなく、『プロイセン』という『国』をみつめてしまいました。

「だよな!綺麗だよな!!うん!イタリアちゃんが誉めるなら間違いねえよな!そうだよな…………よし!!」
 プロイセンは大きく息を吸って拳を握ると、僕を地面に下ろし大股で中庭に向かって走り出しました。
「あっ待ってプロイセ…!」
 慌てて追いかけましたが、まだ子供の身体の僕の足では、もう立派なお兄さんの姿になってしまったプロイセンには追いつけません。彼はあっと言う間に木立の向こうに消えてしまいました。
「あぁ…どうしよう」
 あの宝石は確かにものすごく綺麗で高価そうでした。


 でも、きっとハンガリーさんは、やっぱり受け取ってくれないと思うのです。


作品名:プリムローズ 作家名:しおぷ