プリムローズ
次に目をあけた時、あたりはすっかり夕暮れの色。
(あ~…!しまった!!)
慌てて飛び起きると、そこは花畑ではなく、お屋敷の、あまり人気のない隅の部屋のソファでした。
おそらくプロイセンが運んで帰ってくれたのでしょう。
ほっとしてソファから降りた時、隣の部屋からあの特徴的なだみ声と柔らかなまるみのある声が聞こえてきました。
身体が小さいのを幸い、気付かれないようこっそり覗いた先。
橙色の光が差し込む部屋の中、夕日よりも顔を赤くしたプロイセンが、両手いっぱいの花束をハンガリーさんに押しつけるように渡しています。
あんまりびっくりしたのでしょう。ハンガリーさんは目を丸くしたまますんなりとその花束を受け取り――しげしげとプロイセンをみつめ。
次の瞬間花が咲きこぼれるように笑いました。
「懐かしい…!昔遊んだ城裏にいっぱい生えてた」
プロイセンはたっぷり5秒間わかりやすく硬直したあと、わかりやすく猛然とそっぽを向きます。
「……あ、あああ遊んだとかじゃねーだろ、あれリンチだっただろーがよ、暴力野郎」
「そうだっけ?忘れたなあ」
「嘘つけ!んでお前、俺様の秘密の宝物、根こそぎ奪ってきやがったんだ。日記にハッキリ書いてあるぜ!!」
顔を真っ赤にしたまボソボソ悪態をつくプロイセンに、ハンガリーさんがぷすっと吹き出しました。
「宝物って!あれだろ、蛇とか蝉の脱け殻とか、蜥蜴の尻尾とか!本当、ガキだったなあ」
楽しそうにクスクス笑いながら、ハンガリーさんは花を一本引き抜き、遊ぶようにくるくる輪をつくって髪に差そうとします。
「…不器用。貸せよ」
プロイセンがぶっきらぼうに言ってそれを取り上げると、
「ん」
ハンガリーさんはまだほんのり笑いの滲んだ表情でおとなしくプロイセンに数本の花を差し出しました。夕日のせいなのか仄かにピンクに染まったほっぺがすごく可愛いです。
ゆっくり、ゆっくり、慎重に、花飾りをハンガリーさんの金の髪に編みこむプロイセン。
その指はここからでもわかるくらい震えていましたが……次に会ったら誉めてあげなくちゃと思いました。
なんせ、殴られる時以外の用事で、ハンガリーさんの半径一メートル以内に入ることに成功したんですから!!
その一週間後、馬車いっぱいの蛇とか蝉の脱け殻やら蜥蜴の尻尾やらがプロイセンから届けられ、たまたまその場にいたオーストリアさんが優雅に気絶したり、怒り狂ったハンガリーさんが北の国に殴り込みにいったりという騒動がひとしきりあって――
結局、二人の関係は相変わらず、まだまだ喧嘩友達のままのようです。
けれど、しばらくの間、ハンガリーさんの髪を飾っていたのが、あの花だったことは言うまでもありません。