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入院いちのせのに

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 後悔はしていないにしても、一之瀬はアレで懲りたんじゃないかという不安が無くもなかった。
 アレはアレで一夜の衝動として思い出のまま封印されてしまったら…なんてことが頭をよぎったりもしたが、あの後は決勝リーグ入りを賭けた試合があって、すぐにアメリカに戻って、一之瀬の手術を迎えて、正直それどころではなかったから、土門自身も忘れかけていたというのが一番正しいかもしれない。
 一之瀬がなぜ急にそんなことを言い出したのか、土門にはやはり理解し難かった。

「…痛かった、だろ?」
 それを問うには思考を巡らせてても適当な言葉が見つからず、結局そんなことを尋ねてしまう。
 どんなに辛いことがあっても涙を見せたりしなかった一之瀬をあの夜散々泣かせてしまったことは、忘れようと思っても忘れられない。勿論、肉体的な痛みのせいばかりでもなかったのだろうけど。
 今度は、土門の言葉に一之瀬が少しだけ意外そうな顔をして、考えるように黙り込む。
「んー……でも。最後の方はキモチよかった、かも」
 珍しく少し躊躇った後、何やら思い出したのか僅かに赤面して普段は滅多に見せないような顔でそんな風に返したので、土門もつられて一気に頬に熱が上がるのを感じ息を飲んだ。
 ベッドの上の入院患者に襲いかからない程度には自分が理性のある人間で良かったとじみじみ思う。
 負けず嫌いでチャレンジ精神旺盛な一之瀬のことだ。もしかしたら「うまくいかなかった」ことが逆に妙な意欲を沸き立たせているのかも知れないなんてふと考えてしまったが、そんなことはもうどうでも良かった。
 随分と現金なものでフツフツと嬉しさが湧いてくる反面、もどかしい気分にもなる。これでは土門も一之瀬のことを笑えない。
「あー…けど、ここにいるうちはどうしようもないんだから…我慢するしかないだろ」
 視線を外してガリガリと頭を掻くと自分に言い聞かせるように苦笑混じりにそう漏らす。
「退院したらすぐに、いくらでも出来るようになるさ、サッカーも…セックス、も。まぁ…だから、今はそんな焦るなって、な」
 気持ちは嬉しいがそもそも体が回復したところで入院している身分だというのに何をどうしようというのか。
 わざと軽い調子でそう言って笑うと、一之瀬は軽く頷きながらもまだどこか納得していない様子で、布団の中で立てた膝を抱えて顔を伏せた。 
「サッカーは、いいんだ。ユースチームに入ることだけが目的だったわけじゃないから、元通りプレイ出来るようになるまでどれだけかかってもオレは諦めない。また、絶対に最高の仲間や相手とサッカーする為にフィールドに立ってみせる……けど、さ…」
「…けど?」
 独り言のような一之瀬の言葉を耳にして、手を伸ばし先を促すようにそっと髪に触れる。
「サッカーは自分の為だからいいけど、セックスは…相手がいるじゃないか…」
 土門の手の感触に目を細め一之瀬は更に小さく呟く。
「だから……サッカー出来ない親友が、セックスも出来ない恋人だったら…そのうちいらないって思われるかもしれない、から…それは、やだなぁ…とか……まだ、一回しかしてないのに…」
 一之瀬らしくない途切れ途切れに告げられた言葉があまりにも意外で、土門が何も返せずに呆けていると顔を上げた一之瀬と目が合った。「恥ずかしいこと言わせるなよー…」なんて今更照れたように笑う。
 散々大胆な発言をしておいてどこが一之瀬の恥ずかしいツボなのかはよくわからないが、その笑い声に我に返った土門は小さく咳払いして一之瀬に向き直った。

「一之瀬。…オレは、別にお前にそういうことがしたいからお前と、その、恋人…になった訳じゃないぞ」
 改まって口を開いた土門に、一之瀬も体を起こして視線を合わせじっとそれを聞いている。
 ぱちぱちと瞬く瞳にやっぱり睫毛長いな…なんてどうでもいいことを思いながら、見つめられると視線を逸らしてしまいそうになるのを堪えて続けた。
「だから、お前が…セックス、出来なくたってオレはお前の傍にいるから…そんな心配はしなくていい」
 自分の方がよっぽど恥ずかしいことを言っている自覚はあったが、恋人を不安にさせるようなことはやっぱりしたくない。ただでさえ、一之瀬にはこれから不安になることも辛いことも思うようにいかないことも、まだまだたくさんあるんだろうから。
 一之瀬はそんな土門の告白にちょっと驚いたように目を丸くして、すぐに先程と同じ笑みを浮かべる。
「まー…だから、今は自分の体のことを一番に考えろって。逃げやしないぜ。サッカーも、オレも…」
 あの一之瀬が、自分との関係にそんな思いを抱いていたなんて考えもしなかった。
気付いてやれなかったのが悔しいとか、どこまでも不甲斐ないよなぁと呆れながらも何となく顔が緩んでしまうことに土門は気恥ずかしい思いをする。
 誤魔化すように冗談めかした口調で言って視線を泳がせると、「どもん」と呼ばれて服の裾を引かれる。
 ん?と首を傾げて身を寄せた土門の頬に一之瀬が音を立ててキスをした。
「土門がそう言ってくれるの、知ってる。でも、ありがとう」
 嬉しそうに微笑む一之瀬を見ているとやはり嬉しい。こんな風に一之瀬が笑っていられるなら、自分が傍にいる意味もあるだろうか。
 生憎素直にそう伝えられる質ではなかったので一之瀬が触れて熱を持った頬を指で掻く。
「……バカ…礼なんて……ぅわっ」
 言葉の途中で更に強く引き寄せられ、不意を突かれバランスを崩した体が前に倒れるのを慌ててシーツに腕をついて支える。ベッドの上に横たわった一之瀬を潰さなかったことに安堵したのも束の間。
 そんな努力をあっさり無視し、一之瀬が両腕で土門の体を抱き締める。

 ――キスならもうできるよ。
 
 なんて耳元で囁いて、驚いた土門の顔を悪戯っぽい瞳が間近で見つめてくるので、小さな笑い声を漏らす唇を土門は遠慮無く塞いでやった。


end?
なしくずし…
作品名:入院いちのせのに 作家名:あそう