イタミ~ YG_side
騎士の戸惑い
あのタカシって奴。本気じゃなかった気がする。
まあ…自分も本調子でなかったのだから、おあいこか?
「…くそ。こんなんじゃなかったら…」
タウバーンの修復が自分にこんなにも負担がかかるとは…。
月明りの中、包帯に包まれた痛々しい左腕。
違和感がまだ引かず、時々鋭い痛みも走る。
昼間のタカシとのせめぎ合い…向かってくる竹刀を受けるだけでも
実は精一杯だった。
「こんなザマでゼロ時間に呼ばれたら…ヤバイな…」
しかし、敵は待ってはくれないだろう。
「ま、いっか。スガタやワコにはバレてないみたいだし;」
どうにかなるだろう。
「君は…僕が気がつかないとでも思ったのか?」
他には誰もいないはずの部屋に響いた静かで…でも威圧的なその声は…
「ス…スガタ!?」
いつからそこにいたのか。大体どうやって寮にもぐりこんだんだ?
「行くぞ。」
「は!?」
スガタは有無を許さず、すぐさまタクトを抱き上げ扉を目指す。
「ちょっ…;ちょっとスガタくん!?」
なにがなんだかわからない。
「…お前、今朝から無意識に左腕をかばってた。」
「そ…そんなはず…!ぐぅっ!?」
タクトの左腕を、スガタは強く握る。
あまりの痛さにタクトは動けない。
「…ほら見ろ。しばらく僕の家で治療だな。」
なぜか怒った声でスガタは呟き、タクトを抱え直す。
こんな時のスガタに反抗しても無駄なのはわかっている。
溜息をひそかについてタクトはスガタに身体をゆだねた。
そして扉を出ようとした瞬間…すべてが止まった。
「…ゼロ時間…」
そこには『騎士』として存在しなければならない空間が
タクトを待ち構えていた。
作品名:イタミ~ YG_side 作家名:あやの