幸あれ。
菊の顔に安堵の色が広がる。
「分かりました。それでは、今日から守らせていただきます。」
そして俺の一歩後ろに下がった。
「私はいないものと思っていただいて結構ですから。」
え!?後ろなのか?
それじゃあ・・・。
「な、なぁ。」
「はい?」
「後ろにいられると、その、歩きづらいし・・・。よ、横じゃダメか?」
・・・・・沈黙。
う、気まずい。
「分かりました。横なら攻撃されても、何とかなると思います。大丈夫でしょう。」
そう言って、スッと俺の横に並んだ。
よかったよかった。
改めて菊を見ると、本当に小柄だ。
なんて華奢なんだろうか。
これであのゴリラ達を一瞬で倒したんだから、結構・・・かなり凄いよな。
それにしてもこの髪、さらっさらだなぁ。
そんな事を考えていたら、菊がこちらを見上げた。
「あ。」
もちろん、目が合う。
まさか、考えてたこと気付かれてねぇ・・・よな?
「な、なんだ?」
菊はさっきとは違う、いたずらっ子のような笑みを見せた。
やべぇ、どきどきする。
赤くなる顔を必死で抑え、平静を装った。
「そういえば、さっき『女性に守られるほど弱くない。』と言いましたね。」
「あぁ。」
「私、そこまで弱くないですよ?」
だろうな。
「菊が強いことは知ってる。」
菊はくすくすと笑う。
「実は私、この会社でNo1の腕前なんです。」
No1!?すげぇなんてもんじゃないな!
「それじゃあ、安心して守ってもらえるな。」
俺が何気なくそういうと、菊は少し驚いた顔をした。
そして、笑った。
「はい、私があなたを守ります。宜しくお願いします、アーサーさん。」
「あぁ、よろしく。菊。」
家に帰ったらあのクソ親父に適当な文句でも言っておこう。と考えつつ、明日からの生活に心を躍らせる。
菊が隣で笑みを見せる毎日に。
そして、気持ちを抑えるのに苦労しそうな俺に幸あれ。