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『人魚姫は真実の底に沈む』サンプル(R-18抜き)

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あれから、どうにか立って歩けるまでに回復した花村だが、道中相当くたびれたらしく、完二の姿が見えなくなった途端に貼り付けていた笑みが剥がれ落ちた。ふぅ、と全身で溜息を吐く。この有様で探索後にバイトの予定を入れていたと言うのだから馬鹿としか言いようがない。
大いに反省してもらいたいところだが、花村は急遽代役に立てたクマの心配をするばかりで、自分のことは完全に棚の上だ。アイツ、大丈夫かなあと呟く彼の肩を掴んでこちらを向かせ、出来るだけ厳めしい面を作って――今更作る必要もない位、苛立っているが――言い聞かせる。
「クマは貴方が思うよりはしっかりしてますよ。人のことを心配する暇があったら、とっとと寝てください」
「へいへい、分かりましたよ……あ、先に風呂入りたい」
「また倒れたいんですか?」
相手が花村じゃなかったら、そろそろ見放している頃だろう。それとも花村だからこそ、こうも腸が煮え繰り返るのか。自分の体調も顧みず、呑気なことを言う彼を二階まで引き摺り上げようと取った手は、逆に握り返された。
「汗掻いて気持ち悪いんだ」しっかりと繋いだ手を軽く引っ張って、花村は廊下の奥へと導く。「お前も汗掻いたろ。一緒に入ろうぜ」という無邪気な誘いに怒りは霧散して、戸惑いに立ち止まる。
立ち尽くした那須の手を、花村がもう一度引いた。
「え…………」
こちらを見詰める花村の目は澄んでいて、純真無垢な子どものようだが自分達は子どもじゃない。大人と呼ぶにはまだ早いが、風呂以外に裸でする行為があると知っている位には、また、その経験がある位には成熟している。
故に、前者から後者、一糸纏わぬ彼の艶姿を即座に連想してしまった那須は黙りこくり、外れ掛けた理性の箍を戻そうと躍起になったが、あろうことか当の花村がそれを外してくれた。一歩、距離を詰めると、猫のように肩に顔を寄せて甘える。
「一緒に……さ」
「俺は、家で入りますから。……だから、」
「俺一人じゃ倒れるかも知れないんだろ? 心配なら、付いていてくれよ。な?」
「それこそ俺が倒れさせ兼ねない」
弱音にも似た本音を告げると、花村が凭れ掛かってきた。
引かれるかと思いきや、あっけらかんと頷いて抱き付かれる。

「酷くしていい」
「………………」
「一緒がいい」
「……先輩……」

頼むよ、と。懇願する花村は心身共に弱っているのかも知れない。とてもじゃないが、放っておけそうになかった。

EX:戦闘シーン抜粋

どうして、どうして自分は一人で、

「アギダイン!」

仲間達に刃を向けられている?
「く……ッ……!」
空を切る扇は彼女の使役するペルソナへの攻撃命令だ。
日の神と崇め奉られる天照大神の姿を取った雪子のペルソナ・アマテラスが操る猛火を、どうにか火炎無効のホワイトライダーで受け止め、やり過ごすが彼女に攻撃されたという事実は那須の心を深く抉った。彼女だけではない。差し向かい睨み合うクニノサギリの下には、さっきまで肩を並べていた雪子と、千枝と、完二がいた。突然の反抗に外野で見守る他のメンバーも困惑している。
『やだ! みんな、どうしちゃったの!? お願い、しっかりして!』
泣きそうな声で呼び掛けるりせにも全くの無反応で、じっとこちらを睨め付ける六つの瞳にたじろぐ。彼らの暗く澱んだ瞳からは、各々の意思といったものは感じられない。
あやつられている。彼らを呼び寄せた禍々しい色の天使を見上げ、那須はギリリと奥歯を噛んだ。
追い詰めたその時から既に影と一体化していた生田目は、許し難いことに菜々子を盾にし、彼女を奪われると、完全に理性を失くして暴走した影に呑まれた。シャドウへの転化。周りのシャドウをも取り込んで大きくなったクニノサギリは強力で、場の空気を操って魔法の威力を変えたかと思えば、人間までも操って己の手駒とする。
力を合わせて菜々子を救う筈が、同士討ちを演ずる羽目になろうとは夢にも思っていなかった。まさかの展開に頭も、心も付いていけない。……どうする、どうする。と、答えの出ない自問が脳裏でぐるぐると巡った。肩で息をしながら、そこに浮かぶ群青色のカードを選び取る。
操られた三人の攻撃は容赦がない。隙を突かれれば彼らが正気に戻るよりも先に、自分が倒されてジ・エンドだ。だからと言って、攻撃は最大の防御とばかりにやり合えば仲間である彼らを殺しかねない。そんなカタストロフィは何が何でも避けなければなるまい。と、なれば。
那須は十枚近いカードの中から選んだ黒く巨大な雪達磨と共に正面を見据え、刀を横に構えた。こちらから打っては出ず、守りに入る。雪子の得意とする火炎魔法と、千枝の繰り出す氷結魔法を吸収するジャアクフロストで攻撃を吸収する作戦だ。完二の攻撃は殴打でも魔法でも対処しようがないが、致し方ない。そこまでカバー出来るペルソナはないから、躱すなりガードするなりして凌ぐしかない。今は、耐える時だ。