声恋
「よろしくお願いしやーす。」
スタジオに響く声に土方はビクッと体を揺らし、すかさず構えた台本越しに妖精の姿を覗き見る。
――だからボーイズラブ関係の仕事は嫌だって言ってんだよォォオ!
声のお仕事というのはいろんなものがある。
アニメ、ゲーム、ナレーションといったものから、プロダクション一のモテ男ですら首が痒くなるような台詞だらけのいわゆる乙女系と呼ばれる仕事、それから歌やラジオといった台本を読む以外の仕事、そして今やっているボーイズラブ関係の仕事だ。
歌、ラジオ、ボーイズラブ。この三つをことに土方が苦手とするのには、ちょっとした理由があったりする。
「ありゃ、今日は土方さんがお相手なんで。」
台本に顔をめり込ませている土方を見下ろしたこの声優界の妖精、沖田総悟のせいである。
――今日はってお前は風俗嬢か!何だその毎日誰かに抱かれてるみたいな言い方は!
もちろんそんな風に言い返すことも出来ず、奥歯をゴリゴリ鳴らしながら小さく頷いた。
総悟はどうやらBL食物連鎖の下の方、ミトコンドリアならぬミジンコのようで、ありとあらゆる男のナニを下の口で食っているようなのだ。
――お前はどう足掻いても受けだっつうの…
誰に反論するわけでもなく、土方はフッと笑い口元を緩めた。
「何笑ってんですかィ、ド変態が。」
腕を組みわずかに顎を上げツンと見下ろす総悟に、思わずきゅんときて手を伸ばしそうになったそのとき、まるでうたた寝から目覚めるようにハッと我に返った。
「……浮ついてんじゃねェや、クソ土方。」
そんな土方に総悟も気づいたのか、今日もぷるぷるの唇を突き出し囁く。
「あ、いや…総悟、ッ……」
土方の呼びかけを振り払うように、総悟はそのままぷいとそっぽを向いて行ってしまった。
土方と総悟がこういう関係になったのはもはや反射な身体で、お互いの存在もお互いに逢えた奇跡で成り立っていると言っても過言ではない。
ちょっと声が恋しくなって携帯に手を伸ばしたら2分の差で着信があったり、なんのオチもない話を聴いてもらったり聴かされたり。
そのくせいつも聴こえてきてるのに聴き逃してたり、いつも伝わっているのに気づかずにいたり。
「沖田さん、そろそろ本番始めますけど。」
ふいに掛けられた声に総悟はぴくんと体を震わせ、それから唇をきゅっときつく噛んだ。
――馬鹿じゃねーの…
一回りくらい小さくなっている土方の背中を見つめながら、口の中の水分が蒸発していくのを感じていた。
スタジオに響く声に土方はビクッと体を揺らし、すかさず構えた台本越しに妖精の姿を覗き見る。
――だからボーイズラブ関係の仕事は嫌だって言ってんだよォォオ!
声のお仕事というのはいろんなものがある。
アニメ、ゲーム、ナレーションといったものから、プロダクション一のモテ男ですら首が痒くなるような台詞だらけのいわゆる乙女系と呼ばれる仕事、それから歌やラジオといった台本を読む以外の仕事、そして今やっているボーイズラブ関係の仕事だ。
歌、ラジオ、ボーイズラブ。この三つをことに土方が苦手とするのには、ちょっとした理由があったりする。
「ありゃ、今日は土方さんがお相手なんで。」
台本に顔をめり込ませている土方を見下ろしたこの声優界の妖精、沖田総悟のせいである。
――今日はってお前は風俗嬢か!何だその毎日誰かに抱かれてるみたいな言い方は!
もちろんそんな風に言い返すことも出来ず、奥歯をゴリゴリ鳴らしながら小さく頷いた。
総悟はどうやらBL食物連鎖の下の方、ミトコンドリアならぬミジンコのようで、ありとあらゆる男のナニを下の口で食っているようなのだ。
――お前はどう足掻いても受けだっつうの…
誰に反論するわけでもなく、土方はフッと笑い口元を緩めた。
「何笑ってんですかィ、ド変態が。」
腕を組みわずかに顎を上げツンと見下ろす総悟に、思わずきゅんときて手を伸ばしそうになったそのとき、まるでうたた寝から目覚めるようにハッと我に返った。
「……浮ついてんじゃねェや、クソ土方。」
そんな土方に総悟も気づいたのか、今日もぷるぷるの唇を突き出し囁く。
「あ、いや…総悟、ッ……」
土方の呼びかけを振り払うように、総悟はそのままぷいとそっぽを向いて行ってしまった。
土方と総悟がこういう関係になったのはもはや反射な身体で、お互いの存在もお互いに逢えた奇跡で成り立っていると言っても過言ではない。
ちょっと声が恋しくなって携帯に手を伸ばしたら2分の差で着信があったり、なんのオチもない話を聴いてもらったり聴かされたり。
そのくせいつも聴こえてきてるのに聴き逃してたり、いつも伝わっているのに気づかずにいたり。
「沖田さん、そろそろ本番始めますけど。」
ふいに掛けられた声に総悟はぴくんと体を震わせ、それから唇をきゅっときつく噛んだ。
――馬鹿じゃねーの…
一回りくらい小さくなっている土方の背中を見つめながら、口の中の水分が蒸発していくのを感じていた。