声恋
「俺と、する…」
「なっ!」
「俺と…する、小笠原。一人よりは、寂しくないよ…」
総悟が顔を上げ土方に視線を投げると、さっきまで総悟を見ていたはずの土方はモグラ叩きみたいにスポッと台本の中に隠れてしまう。
――テメーに用があるんじゃねェし…タイミング掴みにくいんですけど。
唇を舐め手の甲をちゅっちゅと吹いながら、総悟は土方の口元を確認する。
しかし対する土方はというと、何かの恨みのように夢中になってチュッチュチュッチュと吸ってるもんだから、さすがの総悟でも合わせられない。
――畜生、総悟の奴ジロジロ見やがって…何だ、誘ってんのか?
しかめっ面で赤ん坊がお母さんのおっぱい吸うようにチュポチュポやっている土方の頭には、もちろんタイミングのことなどこれっぽっちもなかった。
それより、総悟が他の男にもあんな熱い視線を向けているのか否かで頭がいっぱいだ。
たかが仕事、されど仕事。割り切れたいけど、割り切れない。
そんな自分が女々しくて女々しくて辛いのだ。
土方がボーイズラブの仕事を苦手とするのはこのせいである。
恋に焦がれいつもミスをする、こんな調子で仕事になるはずがないのだ。
かといって総悟以外を攻めるのは気が引けるし、受けの仕事など言語道断、そんなどうにもこうにもイけないEDというわけで。
晴れて総悟と付き合うようになって勃つようになったと思っていたのだが、どうやらその読みは甘かったようである。
「土方さん沖田さん、すいませんがもう一回お願い出来ますかね。」
声優界一の名刀と名器の競演とあって、各所期待の眼差しを向けていたものの、すっかり萎えている土方のナニのおかげで台無しだ。
――何やってんだ、俺…
緊張に任せて思いっきり吸った手の甲は病気みたいに真っ赤な痣が何個もついているし、台本の攻めみたいに受けをときめかせるどころかがっかりさせているし、何より仕事が出来ていないこの事実に苛立ちが募るのだ。
人知れず空まわる歯車は、悲鳴をあげている。
ただ愛されたいし愛していたいだけのに、二人の日々は波乱万丈で。
「…すいません。」
土方の台本を握る手に、思わず力が入る。