声恋
頬への口付けを終え、耳に唇を寄せると手の甲さながらチュッチュと吸い上げる。
くすぐったそうに身をよじる総悟に調子が出てきた土方は、手をゆっくり尻へと下げていった。
「俺だってその…原作買って読んだりしたんだよ。」
「うわ、それはさすがの俺でもドン引きでさァ。」
まるで痴漢でも捕まえるかのような動きで土方の手首をキュッと掴み、総悟は唇を尖らせ眉を寄せる。
「仕事だろうが!別に好き好んで買ったんじゃねぇよ!」
そのまま総悟に手首を絞られた土方が、腹から絞り出した声で呻く。
――チクショォォオ!ちょっと調子に乗って口が滑った結果がこれだよ!
手首絞りに飽きた総悟が土方を解放してやると、再び栗色の頭が土方の前で揺れる。
「ほんと死ねよ、クソ土方。」
その後ろ姿はちょっと怒ったようで、土方は頬をポリポリ掻きながら見つめるだけだ。
――別に、うれしくねェし…
みるみる熱くなる頬を隠すように、俯き夢中で足を動かす。
付き合う前は付き合ったら上手くいくと思っていた。
付き合ってみた今上手くいかないのは、どうしたらいいのか。
――何やってんだろ、俺…
ちょっと素直になるだけのことが出来ない二人は、今日もこんな調子になる。
きっと明日もこんな調子で、明後日もまたこんな調子だ。
でも、それを今は希望にしたい。
「どうせやるならヘタレドM攻めの役にしなせェよ、アンタにぴったりですぜ。」
「役と俺は違ぇんだよ!お前こそ小笠原を見習え、小笠原を。」
レストランまであと何分くらいだろうか。
柿内と小笠原みたいに好きって言った言ってない論争みたいなくだらない話をしながら歩いて行くのだろう。
「ねえ土方さん、今日これ終わったら飲みやしょうぜ。」
総悟が振り向き背伸びをし、土方の耳元に顔を寄せる。
ふわっと温かい風が土方の三半規管をくすぐり、土方はそっと目を細めた。
「…ちゃんと出来たら、えっちしてやってもいいですぜ。」