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境界の歩き方

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1/発端



 跡部景吾の眼には、物心ついた時から幽霊やあやかしといった異界の住人が視えていた。幼い頃は視えていることに気づかれてその類いに襲われたりもしたものだが、その才能を開花させ除霊の能力を得てからは、振り回されることもなくなった。
 十三歳まで、跡部は修行と称して師匠である除霊師榊太郎の仕事に同行し、霊を除いて経験を積んだ。所詮霊やあやかしとは人間とは相容れぬ存在であり、分かり合う必要はない。彼らがこちら側の平穏を脅かすのであれば、退去願うしかない──というのが榊の持論であり、跡部も全面的にそれを支持していた。
 ──人外の言葉に耳を貸してはならない。それは人を惑わせ、時に破滅へと追いやる。
 そんな考えを持っていた跡部だったが、十四歳になる直前に親代わりでもあった榊が急死し、彼に後を任されたと言う霊媒師任されたという霊媒師に引き取られることになった。
 その霊媒師──伴田幹也は、榊とは全く別の考え方の持ち主だった。
 彼は、人外を排除するのでも、浄化するのでもなく、ありのままの彼らを認め、共存していこうと考えていたのだ。
 そんな考えは、跡部には到底認められるものではなかった。しかし、跡部のことを伴田に託すとの榊の遺言がある以上、それを無視することもできない。故人に「お前の能力を最大限に引き出せるのは、私の他には伴田氏だけだろう」とまで言わせた伴田に、純粋に興味を抱いたのも事実だった。
 伴田にはもう一人、千石清純という弟子があった。千石は伴田の考えをそのまま実践することで、あらゆる怪奇現象をおさめていた。

「千石君は、人ではない存在に好かれやすい性質なのですよ。それは彼特有の才能といってもいいでしょう」

 伴田の真意の見えない言葉を、跡部は苦々しい想いで聞いた。跡部とて、人外と心を通わせようとしたことがないわけではない。まだ榊に出会う前、気の合う幽霊に巡り逢い、信頼し、危うくとり殺されかけたのだ。
 その経験を語り、千石に警告したこともあった。しかし彼は、笑って取り合わなかった。
 
 
 その青年が伴田心霊事務所を訪ねてきたのは、例年より長い夏がようやく過ぎ去った九月の終わりの事だった。
 事前の予約無しに仕事帰りそのままのスーツ姿で現れた彼は、落ち着かない様子で伴田に名刺を差し出した。

「不二裕太さん、ですか。今日はどういった御用件でしょう?」

 青ざめた顔の依頼人とは対象的に、伴田は普段と変わらぬ底の見えない微笑みを浮かべながら切り出した。跡部は客人の前にお茶を置きながら、彼を観察する。
 
 不二裕太は一見して酷く嫌な気配を背負っていた。直接とりつかれているわけではないが、明らかに怨霊の類の影響を受けている。
 
「実は……先日兄貴が引越しをしまして……」
 
 裕太の話を要約するとこうだ。兄である周助の新居に荷物を運び入れる手伝いにいったところ、寝室の壁に大きな染みがあるのを発見した。下見に訪れた時には、家具によって意図的に隠されていたらしい。不動産会社に抗議の電話をしたところ、繋がらなくなっていた。血痕のようで気味が悪いので仕方なく業者を呼び壁を塗り替えたが、何度塗っても染みが浮き出てくる。そこで、心霊現象なのではないか、という話になった。

「しかし、それで何故お兄さんではなく貴方が?」
「兄貴は……三日前から体調を崩してて……俺はそれがあの染みのせいなんじゃないかって言ったんですが……兄貴は否定して、いまだにあの家に住み続けてるんです」
 
 看病のために度々訪問し兄の様子を観察していると、夜中には必ずうなされていた。一度どんな悪夢を見るのかと尋ねると、周助は言葉を濁しながらも渋々打ち明けた。
 毎晩、決まって同じ夢を見る。見たこともない男が現れて、ある女が憎いと訴えてくるのだという。自分はその女性と関わりがないと説明しても男は聞き入れない。ひとしきり嘆き、罵り、泣き喚く。

「俺、このままじゃ兄貴が取り殺されるんじゃないかって心配なんです。一度、見に来て貰えませんか」
 
 裕太の言葉に、伴田はしばし思案したのち、ゆったりと頷いた。

「わかりました。伺いましょう」
作品名:境界の歩き方 作家名:_ 消