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かなや@金谷
かなや@金谷
novelistID. 2154
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RED

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駅前の小さな本屋から外に出ると、空は薄暗く大きな雲に覆われていた。もうすぐ春だというのに、陰れば未だに寒く風が身に染みる。
 改札から流れる人々の服装も、冬のものと春のものが入り混じっている。足早に駅から出て行く人を目で見送りながら、待ち人が訪れない事を確認すると脇に抱えた紙袋の封を切った。
 まだ少しひんやりするガードレールに腰を掛けた。ぶるりと身を震わせたが、早く読みたい気持ちに押され十代は冷えた指先で買ったばかりの雑誌を捲った。
 ぷらぷらと地には届かない足を所在なく動かしながら、漸く目当てのページに辿り着いた。
 そこには、大きく一枚の写真が載っていた。体には見合わないほどの大きなトロフィーを掲げる少年の姿が写っている。歳は十代と離れてはおらず、黒い髪を鋭角に立てた印象的な髪型をした少年は、服装も他の受賞者とは違いシャツにネクタイと大人びている。その実力、出で立ち、出自と共に掛け離れた存在だ。
 写真の中の彼は、さも当然のことと言わんばかりに、澄ました表情でトロフィーを掲げている。数多の栄冠を手にしている彼ならではだ。それを眺めながら十代は、自分のことのように喜んでいる。その歓喜は彼の代わりだと言わんばかりにだ。十代の小さなガッツポーズに通り過ぎたサラリーマンが首を傾げていた。
「楽しそうね」
 広げた雑誌の下に大人の女性を感じさせる綺麗な足が見えた。顔を上げれば長い髪を風に靡かせた美しい女性が立っている。
「み、みどりさんっっ」
 慌ててガードレールから飛び降りると、慌てて雑誌もパタンと閉じた。
漸く待ち人が現れたというのに、雑誌に夢中で彼女が来るのに気付かなかった。駅前が見渡せるここを陣取っていたのか意味が無い。
「どれどれ? また初恋の子を見ていたの?」
 揶かうように、すらっとした姿態を屈ませて、顔を覗き込んでくる。目前に迫る大きな胸元につい視線が行ってしまう。
「は、初恋って…………」
 相手は男だと言うのに、みどりは好んでこういう言い方をする。ぐいっと迫る膨らみを避けるように顔を背けた。赤く染まる頬を彼女はどう思っているのだろうか、必死に別のことを考えた。浮かんだのは彼女曰く『初恋』の相手だった。
「だって、十代くん好きでし? 万丈目くんのこと……」
「そうだけどさ…………」
 でも、それは恋とかそういう感情ではないのだ。確かに、会いたいし、焦がれているが、そういった意味ではない。そんなこと考えたこともないし、なによりも、男同士だ。
「同じようなものよ」
 そう笑って、長い髪を掻き上げる。ふわっと、甘い花のような香が漂う。
 彼に親近感のようなものを十代は抱いている。
 デュエリストになりたいと誓ったあの日から十代の生活は一変し、価値観はがらりと変わった。
 それまで興味の無かったデュエルモンスターズの世界を調べるようになった。そして、ジュニアチャンピオンが、自分と同じ年であることを知ったのだ。 その名は万丈目準。だが、十代にとって彼が同じ年齢のチャンピオンであることよりも、彼が尊敬するデュエリストとして紅葉の名前を挙げていたことが重要だった。
 同じ紅葉に憧れる者として親近感が沸く彼がジュニアチャンピオンなのだ。
 そして記事には彼の新たな栄冠の事と共に、デュエルアカデミアへの進学のことが書かれていた。彼ほどの実力を持ちながらも中等部に入学しないことや、その出自によって彼はアカデミアには進まないのでは噂されていた。同じくアカデミアを目指す十代にとっては残念なことだったが、この記事でその杞憂も晴れた。
 ずっと、十代は彼を追いかけてきた。大会などで対戦したことはないが、こうして雑誌等で彼を追い続けてきた。いつか、いやアカデミアで対戦することを夢見て…………
 写真の中の彼は、いつも大きなトロフィーを掲げて笑っていた。その満面の笑みは、楽しいデュエルを予感させるモノだった。
 なのに、その笑顔が徐々に減っていった。今ではもう彼が笑っている写真を見ることはない。勝利こそ、栄光こそが当たり前だと言わんばかりの表情をしている。
 そのクールな姿が良いと評されているが、十代はそうは思わない。楽しそうにデュエルする彼の姿こそが良いと思っているからだ。だからこそ、早く彼と対戦したかった。自分が彼に再び笑顔を与えられるとは思わないが、きっと同じ紅葉に憧れる者同士楽しめるはずだ。
「待ってなくてもよかったのに、寒くなかった?」
 先に行っていても良かったのよと、みどりは微笑む。だが、十代は待っていたかった。
 彼女がデュエルアカデミアの教師となる前は、毎日のように会っていたが、絶海の孤島に建つ学校に赴任してからは会うこともままならない。あの時から眠ったままの紅葉に会えないことは、彼女にとって一番堪えることのはずだ。だからこそ、待っていたかった、おかえりと、出迎える姿があれば彼女だって嬉しいだろうと思ったのだ。
「みどりさんに早く会いたくて……」
 本心を伝えるのは気恥ずかしくて、早く会いたかったことに付け加えて駅前の大型書店に行きたかったのだと言えば、彼女はついでなのかと笑っている。そして、細い白い腕が首筋に絡みつき、ぐいっと体を引き寄せられた。ぽわん、と柔らかい弾力が頬に触れている。ドキドキと鼓動が高鳴り、頬が熱く染まっていく。
「みどり姉さんでしょ」
 兄弟が居ない十代にみどりは姉になってあげると、以来「姉さん」と呼ぶようにと促される。そのことや、今も肌に触れる豊かな膨らみのことといい、彼女は十代を一人の男としては扱っていない。それも、本当の姉弟のように捉えてると思うと嬉しいが、一人の男として見られていないのだと思えば複雑だ。
「すぐに呼べなくなるんだから、いまのうちに呼んどきなさいよ」
 憧れのデュエルアカデミアに入学出来れば、彼女を「響先生」と呼ばなくてはならないのだ。それまでの間は「姉」として居たいのだと彼女は言う。
「ほら、私からのプレゼントよ」
 手渡されたのは、アカデミアの願書と過去問題集で、彼女は笑いながらちゃんと勉強しないさいよと、収まりの悪い十代の髪を掻き乱した。
「ありがとう。俺、オシリスレッドを目指すんだ」
「そこは目指すところじゃないでしょ」
 デュエルアカデミアの中でも落ちこぼれが行くのがオシリスレッドなのだ。アカデミアに入学した者ならば、成績優秀者のみが許されるオベリスクブルーを目指すところだろう。なのに、十代は最初からオシリスレッド以外を望んではいなかった。 
「さ、紅葉のところに行きましょう」
 促されて歩き出せば、長い黒髪を揺らしながら細く白く長い足が、歩き始める。コンパスが違うせいもあり、彼女が一歩踏み出せば、小走で二歩進む。普段よりも早く歩きながら、彼女を見上げれば長い髪を揺らしながら微笑んでくれる。そっと差し出された手を握りしめて、並んで紅葉が待つ病院へと歩き始めた。

作品名:RED 作家名:かなや@金谷