RED
久しぶりにみどりの声を聞いたのは、アカデミアの合格通知を貰ってから暫く経ってからだ。共に紅葉の病室を訪れてから連絡すら取れなかった。
十代が受験に集中していたこともあるが、アカデミアの教師に就任してからみどりも多忙なのだろう。実の弟の見舞いすら満足に行けないほどアカデミアは僻地の孤島に建てられている。その島へ渡る手段は定期船しか無く、それも頻繁にあるわけではない。入学案内にも遅刻厳禁と書かれていた。それでも、この季節は新入生のために多く運航されているそうだ。それでも、とても頻繁に行けるというモノではなかった。
『本当は入学してからなのよ』
そのみどりの一言と共に十代の許にプレゼントが届けられた。
入学祝いと熨斗を付けられたその箱の中には、オシリスレッドの制服が一式納められていた。
『紅葉に見せたいでしょ?』
受け取ったことを伝えたメールに、その言葉が書かれていた。彼女には全てがお見通しだ。その言葉の裏には、自分の代わりに弟を見舞って欲しいという思いも込められているのだろう。
『それにしても、補欠でギリギリ合格だったわよ。ちゃんと勉強してたの?』
その言葉には乾いた笑いしか出来ない。よく自分でも入学できたものだと思うのだ。試験の方はギリギリであったが、実技としてのデュエルは好成績だったために考慮されたらしい。きっと彼女は笑いながら、十代君らしいわと言うのだろう。白い手で頭を撫でながら、長い髪を少し掻き上げながら微笑むみどりの姿が浮かぶ。
『そうそう。十代君の初恋の相手は、オベリスクブルーだそうよ』
そう揶揄するのは彼女の癖だ。いいかげん訂正するのも嫌になってきたので、聞き流すようになってしまった。
彼女に何を言ったところで口答えできないのは分かっている。雑誌で見ただけの同い年のジュニアチャンピオンの少年のことを、彼女は十代の初恋の相手だと主張するのだ。
「すげーよな」
彼女の言葉を借りるならば『惚れた』相手は、中等部からの優秀者しか入れないオベリスクブルーへと進んだらしい。試験の成績もあるが、何よりも彼の実績を考えてのことだそうだ。自分が入ることとなるオシリスレッドとは天と地とも離れている。だが、入ることすら自分には危ぶまれていたアカデミアに入学できたのだ。同じ校内に居る限りは、彼と決闘することもあるだろう。
その時は、どんな決闘になるのだろうか、きっと楽しいモノに違いない。紅葉に憧れる者同士の戦いなのだ、そうならないはずはないと十代は確信している。
なによりも、彼の最強のモンスター、我が身を犠牲に主人を助ける。あの白と黒の美しいドラゴンとも戦えるのだ。あのドラゴンは、自分の相棒と同じような存在なのだと思っている。写真を見ただけで、あのカードには精霊が宿っているのだと感知した。
肩口でふわふわと浮遊する相棒が、クリクリと鳴いている。もこもこの毛玉のような体に、大きな瞳、白い羽根のハネクリボーは、カードのモンスターでもあるが、精霊でもあり、紅葉から授けられた相棒でもある。そして、彼にも、万丈目準のモンスターにも精霊が宿っている。
それを彼は気付いてるのだろうか、人にはその姿を見ることはない精霊だから、もし彼にも見えるのならば仲間のようで嬉しい。同じ紅葉に憧れ、精霊の見える同士、同い歳、これだけ揃っているのだ。なにか運命のようなモノすら感じる。
「よっと…………」
赤い制服に腕を通した。鏡に向かって立つと自分にはよく似合っている気がする。その後オベリスクブルーの制服を思い浮かべたが、あれは自分には似合いそうもない。
「よしっ、行くぜ相棒」
ふわふわとした相棒は、クリクリと気合いを入れて鳴いている。掌で頬を叩くと部屋を飛び出した。一刻も早くこの姿を紅葉に見せたいのだ。
彼が決闘に用いた衣装のように、赤い制服を着た自分を誰よりも早く、最初に紅葉に見て欲しい。