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Stop!Brother-in-low!2

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護身目的でアスガルドから持ち出した、もう二度と使うまいと思った武器がそこにはあるはずだ。

シグムンドは、抜刀姿勢で腰を低くしたままドアノブに手をかける。
その刹那、フレイヤの指先にカツンと当たる、冷たく堅い感触。彼女はそれを引きずり出すと、手にとって構えた。
少し埃をかぶった、青き杖ドラウプニルを。



ドンドンドン!!



巨神族を退けたとはいえ。
敵軍勢侵攻によって家や財産、土地、仕えるべき主を失ってしまった人間の中には、愚かにも山賊や強盗に転身してしまう者も少なくなかった。
なので、平和になったとはいえ、北にしろ南にしろ、お世辞にも治安は以前のように安定してるとは言い難いのだ。
三日前にもレギン率いる狂戦士の村が、山賊と衝突し、辛くも勝利を収めたばかりである。

この村にも魔の手が伸びるのは時間の問題……と思った矢先の、突然の来訪者。
道に旅人を装って、泊めて欲しいと偽って。家に上げてもらった途端化けの皮を現すのは、奴らの十八番だと、近隣の集落から得た情報でわかっている。
族長が最悪の事態を予測してピリピリしてしまう気持ちもよくわかる気がした。

シグムンドが取っ手に手をかける。フレイヤは手に力を込める。ドラウプニルが目映い光を放ち始めた。
もし、扉の外にいるのが害をなそうと考えている奴だったら。これで足を狙ってやろうとの算段なのだ。


鞘を投げ捨てた夫が、勢いよく戸をあけはなった。


「何の用だ!」


暗闇にぼんやり浮かぶ人影の喉元部分に、シグムンドは剣を突きつけた。


「返答によっては斬り捨て」
「私だ」


シグムンドの口上を遮る、冷静な一声。
聞き覚えのありすぎるその声に驚いたフレイヤは、つい呪文の詠唱を止めてしまった。青き杖は、急速に光を失っていく。


「手荒い出迎えだな、我が義弟よ」


シグムンドはゆっくりと剣を下に降ろした。人影は、立ち尽くした夫を軽く押し退けるようにして、家に足を踏み入れてくる。
暖炉の光に照らされる、明るい茶色の髪、赤い瞳、白い肌、「幸せになるんだぞ」 と告げた口。


「……フレイ、か?」


夫が問うた。
アスガルドに帰ったはずの兄は、こくりと頷く。


「ミズガルドを偵察していたら、急にお前たちの顔が見たくなった」


フレイはシグムンドを見て微笑み、フレイヤを見て微笑んだ。たぐいまれなる容姿に見合った、花が綻んだかと錯覚してしまうような美しい笑顔。
だが、


「会いに来たぞ、二人とも」


――目が笑っていない、とフレイヤは思ったのだった。












作品名:Stop!Brother-in-low!2 作家名:杏の庭