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Stop!Brother-in-low!2

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そして、その後剣を手に取り……冒頭のやりとりをするに至ったのである。


気まずい沈黙を破ったのは、シグムンドだった。
「フレイヤ……渡したい物があるんだ」
彼の手が、女神の視界から消える。再び姿を現したそれは、小さな木箱を持っていた。細かな装飾が掘られている上に、彩色まで施してある。
思わず相手の顔を見ると、穏やかに微笑んでいる夫の顔がそこにはあったのだった。


「受け取ってくれるか?」
「……受け取らない理由なんてありません」


手に取ると、軽い。中をみていいかと目で聞くと、相手が微かにうなずいたので遠慮なく蓋を開ける。
中にあったのは、大事そうに布にくるまれた……


「鍵?」
「俺の家の鍵だ。ドアどころか家もまだ修繕できていないが、ヴェルンドに頼んでこれだけ作って、今日持ってきて貰った」


家の鍵というのは、家事の一切を司る主婦の証。別世界で言う所の結婚指輪のようなものである。
フレイヤは鍵を火の明かりに照らした。銀色のそれは、ほのあかるい光に反射して、きらきら輝いている。


「きれい……」ため息とともに、口から言葉が漏れた。
「あぁ、俺もなかなかだと誉めたのだけどな。あいつは、鍵なんて造ったことがないから、上手くできなかったって言うんだ」
「私には、どこが悪いのか解りませんが」
「ちょっと曲がってしまったとか言って……」


シグムンドの手が伸びる。そして鍵の先端を指したのだが、その時、指先が少し、フレイヤの掌にあたった。
かすった程度で痛くも痒くもないはずなのに、思わず、互いに顔を見合わせる。


「白魚……を、実際にお目にかかったことはないが。この手のように綺麗な魚なんだろうな。きっと」


夫の手が、妻の左手を取る。割れ物を扱うかのように恐る恐ると。


「シグムンドの手は……狩人の手をしていますね。日に焼けていて、皮が厚くて、細かい傷が沢山あります。
 ……でも、好きですよ。この手に触ってもらうと、すごく安心するんです」


鍵を箱に戻した後、妻の手が夫の片手を左右から挟んだ。
生きている人間の温もりが、直に伝わってくる。炎とは違う種類の暖かさだ。

手を取り合ったままじっと二人は見つめあった。思えば、戦場に身を置いていた時は、このようにして真っ正面から相手の瞳をみた事はなかった。
大きく赤い兄の目とは真逆の、水色の鋭い目。すべてを見透かしそうな双眸には、自分の姿がくっきりと映し出されていた。


「……フレイヤ」
「シグムンド……」


まるで吸い寄せられるかのように。少しかさかさしている唇が、自分のそれにあっと言う間に重なった。
近寄ってきた大きな図体に押しつぶされそうな錯覚を覚えて、慌ててフレイヤは彼の身体にすがりつく。
シグムンドもまた、逃がすかと言わんばかりに、手で、妻の頭を押さえ込んできた。

いつもは、ついばむように軽いキスを何度も交わすだけなのに。今回は、長い。しかも、相手の舌がツンツンと自分の歯や歯茎をつついている。
何がしたいのかわからないが、されるがままフレイヤは少し口を開けた。と、すかさずシグムンドの舌が咥内にねじ込まれてきたではないか。


「んんっ!?」


反射的に頭を後ろに反らし逃げようとするが、押さえつけられているのでそれもままならない。
大きな舌が歯を舐め、口の中をはいずり回り、突然の侵入者に逃げまどうフレイヤの舌を絡めとった。


「~~~!!」


ぐちゅぐちゅといやらしい水音が、口だけではなく耳までを犯す。やめて、こわい、息ができない、と、相手の背中に爪を立てて訴えると。
口と口を繋げたまま、夫は妻を優しく押し倒してきた。
暖炉のすぐ傍にはベッドが備え付けられているというのに。彼女はひんやり冷気の漂う床に横たえられる。

シグムンドはフレイヤのふとももを跨いでその上に座り、(ずっしりと重かった)そして、やっとのことで口を離した。
空気を求め、大きく呼吸を繰り返す間もなく、服の上から胸を鷲掴みされて。


「ひゃあっ!!」


嬌声とも悲鳴ともとれる変な声がでてくる。
いつもとあまりにも違う声音に自分で驚いて、反射的に手で口を塞ごうとするが。それより早くシグムンドに手首を捕まれてしまう。
夫はすかさず首筋に顔を埋め、チクリとしたものを肌に押しつけてきた。これは……歯か。
デリケートな部分に受ける鋭い刺激に、ぞくぞくと背筋をかける快感。つい腰が抜けそうになる。

手首を拘束していた手が離れ、シグムンドはフレイヤの隣に横たわる。そして、腕を伸ばし、彼女を抱き寄せ、胸の内に閉じこめたのだった。
破裂しそうなぐらい激しく脈打っている彼の鼓動が、よく聞こえた。


「フレイヤ」


耳元で夫の声がする。
いつもの勇ましさはどこへやら、掠れた声がいやに色っぽくて。なんだかそれだけで脳がどろどろにとろけてしまいそうだ。


「なぁ、いいか?」


獣のように荒い吐息が、こめかみにかかる。


「くってもいいか?」


あなたになら、なにをされても。


フレイヤはがむしゃらに、頭を縦に振った。
こんなの小さな子供みたい、と思ったけども。口を開いても、熱い空気が出たりはいったりするだけで、言葉を紡ぐ事なんて到底できそうになかった。

言わんとしたことは伝わったようで、すぐさま首筋にキスを落とされる。何度も何度も。
鳥のさえずりのように可愛い音がして、くすぐったくて、つい笑いそうになるが。ぐっとこらえる。

思い返せば、先ほどから自分は夫にやられてばかり。それは悔しいと思ったフレイヤは、負けじとシグムンドの首に噛みついた。
精一杯噛んだつもりだが……相手が喉の奥で笑っているところからすると、痛くも痒くもないのかもしれない。
悔しくなって一層力を込めたが、ふとももを這うしめった手の感触に思わず気と口がゆるんで「はうぅ……」またもや妙な声が出てしまった。



その時。



ドンドンドン!!



乱暴な音が響く。シグムンドの肩が跳ね、首筋から口が離れる。フレイヤは首を曲げ、反射的に音の発生源をみた。
お世辞にも頑丈とはいえない扉が、今にも弾け飛んでしまいそうなぐらい、強い力でノックされている。
馬鹿力かつ、タイミングが悪い。そして真夜中の来訪者として考えられるのは、火急の用事を伝えるヘルギしかいない。
だが、彼の場合は、ノックと同時に声を出すだろう。「シグムンド、フレイヤ、大変だ、おい大変だぁ!!」 と、言うだろう。



ドンドンドン!!



夫の行動は迅速だった。まず、フレイヤの着衣の乱れを直し、頬にキスを一つ落とす。
そして、立ち上がり暖炉の傍に置いてあった剣を鞘ごと掴むと。音を立てないでドアに近寄った。
さして広い家ではない。五歩も歩かないうちに、彼は扉の目の前に立つことができた。



ドンドンドン!!


燃え上がっていた体の火照りが、脳を支配していた甘い痺れが、急速に引いていくのをフレイヤは感じた。
明瞭になった頭で、族長の妻として、何をすべきか短い間に考えて。
すぐさま彼女は半身を起こすと、ドアの前に立つ夫の広い背中を見守りつつ、ベッドの下を手探ったのだった。
作品名:Stop!Brother-in-low!2 作家名:杏の庭