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夕陽

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 チェーザレの白い手が、ミゲルの顎をとらえた。きれいな顔が、近づいてくる。
 何をされるのか分かったが、抵抗する気は起きなかった。
 唇が塞がれる、柔らかい感触。自然と目を閉じていた。
 少しだけ、動悸が早まる。唇を軽く、ゆっくりと何度も啄まれると、体の芯がしびれるような感覚を覚えた。

 唇が解放され、ミゲルはゆっくり目を開けた。目の前に、チェーザレの灰青色の瞳がある。穏やかに微笑んでいた。
「二人で来れば、いいこともあるだろう、ミゲル?」
 チェーザレは立ち上がり、衣服についた草や土を払い、体を伸ばした。
「そろそろ帰ろう。日が沈んでしまう前に。」
 ミゲルも腰を上げる。チェーザレはさっさと馬に跨り、軽く馬腹を蹴って駆け出していった。
 ミゲルも自分の馬を引き出し、後を追う。
 …何だったのだ、今のは。
 唇の感触が、まだ生々しく残っている。今起きたことが、うまく飲み込めない。
 日が傾き、あたりが薄いオレンジ色の光に包まれている。
 赤い夕陽の光の中なら、自分の顔が赤いことが知られないだろう、とミゲルは思った。
作品名:夕陽 作家名:いせ