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そして僕は一人になった

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思えば、一進一退の関係だったような気もする。押しても無駄だったから引いたとか、お互いそうだったわけではない。本当の気持ちを見せるような素振りをしてみたり、それとは反対の、骸が綱吉と10年前に初めて会った時の冷酷な部分を見せてみたりしていた。それが繰り返される度に、綱吉は骸の行動に振り回されていた。ただ、骸が月日という摩擦の刃によって丸くなってきている感じはしていたし、以前よりかは骸を怖いと思わなくなったのは事実だ。互いに手は差し出していた。骸はこの10年間で気がついた綱吉への思いを込めて、綱吉は親愛の気持ちを込めて。
そう、思えば、ただ怖かったのだ。目の前の扉はいつも無機質に佇んでいた。いっそのこと開けて踏み込んでしまいたいと思う。開けたその先に綱吉が待っていてくれるかもしれない。そう思えた少し前の自分は幸せだったかもしれないと骸は思う。今は、扉の先に何もない。何もなくなってしまってからでは遅かった。今更、愛していると投げ掛けてみても虚無の中からは何も返ってくるはずもない。後悔と絶望と虚無とが骸を襲う。信頼なんて、忠誠なんて、初めは敵であった人間になど捧げるべきではなかったのだろうかと問いかける。違う。そうじゃない。その思いこそが骸を満たしていたのだ。綱吉の声が、表情が、全てが骸に過去を呼び起こさせる。全てが満ちていた、あの日々の記憶が呼んでいた。


月の美しい夜だった。二日間を予定していた任務は一日で終わり、骸は月の光が反射した道の上を一人歩いた。ボンゴレ本部に着くと、関係者専用の入り口からパスワードを入力して中に入った。カーペットの敷かれた床は歩いても音がしない。もちろんこんな時間に中を出歩く者はいない。エレベーターに乗り込み、開いたドアの先に視線を走らせると、暗闇の中に小さな人影があった。
「・・・沢田、綱吉」
ポツリと静寂の中に言葉を投げ掛ける。闇に溶けることなく声は響き、綱吉の耳をくすぶる。
「・・・あ、む、骸?」淀みのない淡い茶色の瞳が骸に向けられる。慌てつつも平常心を装うとしているのが丸分かりだった。
「何ですか、別に珍しいことでもないでしょう、予定よりも早いことなんて」
うろたえている綱吉にゆっくりと近付きながら骸は言う。綱吉は自分の顔の前で両手を大きく横に振った。