会いたい
もうこの世にいないのにね。
ただ会いたくて会いたくて、そればっかりだ。
「ごめんね、もう来ないって確約はできないや。・・・また出てきたら、叱ってやってよ」
「臨也さん!」
「・・・頼むよ」
叱ってやってよ、頼むよ。
君の声でなら目が覚めるようなきがするからさ。
そしてもし、もう君にとって自分が邪魔なものになっていたら、そのときは遠慮なく、もう来るなと言ってくれ。たぶんそうでなきゃ、臨也はいつまでたってもこうして、繰り返してしまう。
何度でも何度でも。
君の隣にいるのが自分で当たり前だとでもいうような顔で、現れてしまうから。
「謝らないで、ください」
震える帝人の声が、小さく二人の間に落ちる。伸ばされた白い手、決して、もう二度と重ならない。
それでも。
「僕だって・・・会いたい・・・っ」
涙と一緒にこぼれる言葉はいつも甘くて、だから、臨也は。
「帝人君、ねえ、帝人、君」
きっと一番望まれている言葉は、ぎりぎりのところで飲み込む。じゃあ一緒においでなんて、連れて行くことはきっと簡単だけど。きっと臨也がそう誘ったら、帝人は決してためらわないから。
だから、だめだ。
ごめんね。
できれば、笑ってて。
「・・・帝人」
もう二度と交わせない口付けの変わりに、名前を呼ぶ。
愛してるなんて簡単な言葉で、言い表せる感情ならよかった。あの日、最後の景色の中で、泣きながら帝人が側に居てと願ったその言葉を・・・たぶん、永遠に忘れられない。
乱暴に目元を拭った帝人が、もう一度臨也さん、と小さく呼ぶ。いつまでそんな風に呼んでくれるだろう、心をえぐるそんな疑問に、今はまだ見ないふりでフタをして。
「・・・またね」
世界が急速に色あせて、遠ざかる景色の中で帝人が何かを叫ぶ。頬を流れたその涙を、拭えないのがこんなに悔しいと思わなかった。
白けて、溢れて、ホワイトアウト。
何度でも繰り返して、まだ足りない。
笑っててほしいのに、泣いてくれると嬉しいなんて終わってる。でも、それでも。もう二度と出てくるなといわれるまでは、きっと、臨也は繰り返してしまうのだろう。何度でも、何度でも。
幸せを願っていた。
あの小さな少年に、降り注ぐ恒久の幸せを。ただ、その不器用な手のひらが大切なものを取りこぼさないよう、その頼りない体躯が世間の不条理に押しつぶされないよう。
そうして彼に幸せを注ぐのは、自分でありたかった。
臨也さん、と呼んだ少年の声が、再び臨也の中に響き渡る。甘やかなキスを交わすように囁かれた名前を、まだ大切に大切に魂の中に飼い続けて。きっと魂が焼け爛れて燃え尽きるまでその声は残るのだろう。同じように、自分の声も彼の中に、いつまでも広がり続ける波紋となればいいのに。
みかど。
繰り返す睦言。
情熱はまだ死なない。