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たたかう放課後シックスティーン

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昼は学校、夜は闘い。

こんな生活が始まって、タクトは少しくたびれていた。
いや、こんな尋常でないことが起こる中で、昼間は穏やかな学園生活ができている方がおかしいのだが。
それはかなり強靭な精神力を持ち合わせていることと、共通の目的と敵を持った仲間が側にいる安心感からだった。
贅沢なのかもしれない。
けれどこの疲労感は、近頃学園でも注目されすぎて落ち着かないのが問題だ。
学園生活で闘いと切り離されて、ワコやスガタと過ごすことが英気を養う秘訣。
なのに。


「はあ、やっと解放された!」
「タクトく〜ん!」
ミズノがタクトに駆寄り、無邪気にその腕にしがみついた。
「どうかしたんですか?タクトさま。」
劇団夜間飛行の一同が、タクトに注目する中タイガーがタクトに尋ねた。
「どうしたもこうしたもないよ、スガタのせいだぞ!」
「もしかしてアレのこと?」
タクトはミズノを引っ付けたまま一人掛けのイスに浅く座った。半分はミズノに。
「おやおや、なんか面白そうだね。聞かせてよ。」
部長のサリナが今までの会話をやめ話題をタクトへと移した。
「実は今日の昼休み・・・。」

それは今日の昼休みのことだった。
ワコとルリ、タクトとスガタはなんとなく4人集まってご飯を食べていた。
「にしても二人ってびっくりするほど体型が同じだよね!」
ルリの言葉に二人は顔を見合わせた。
「そうかな?」
「身長は同じくらいなんじゃない?」
「いいえ!私のスコープアイは、着目箇所において正確のデータを読み取ることができ、美少年に関してはその的中率は99.9%という実績を持っているのです!」
「何それ。」
冷ややかな視線を送る友人を、無言のジェスチャーで諭してルリは続ける。
「私の目測によれば二人は身長、肩幅、胸回り、ウェスト、腰回り、股下の長さまでピタリと同じである上、太ももの太さ、手の大きさ、足の大きさまで寸分違わず同じなのだ!!」
白熱するルリに、タクトが口に運んだはずの卵焼きは、ポカンと開いた口の前で待ちぼうけを食ってる。
そのタクトの顔を覗き込み、スガタは無言で右手の平を差し出した。
それに気付いたタクトは卵焼きを箸の先につまんだまま、無言でその手に左手を合わせた。
「同じだね。」
「嘘!絶対スガタの方が指長いよ!もっかいもっかい!」
「ピアノやってたからな。」
もう一度二人は手を合わせたが、確かに大きさはぴたりと同じ。
「あれ〜?僕って以外と指長かったのかな?野球のせいか?」
するとスガタがタクトの左手をギュっと握った。
そのまま唐突に立ち上がりタクトをイスから引きはがすと、社交ダンスでも踊るようにぐっと腰を引き寄せた。
「うわ・あ!」
この光景にクラス中が二人を注目しただけでなく、開放的にガラス張りにされた教室の外からも注目が集まった。
スガタは握っていた手を離して、両手でタクトの肩を自分の肩へ引き寄せた。

えっちょっと!キャー!
と廊下から黄色い悲鳴が聞こえた。
「確かに、肩幅も同じ。・・・海育ちで泳ぎには自信があるのに。」
「ちょ、顔、近!」
あまりに近すぎて、タクトは小声で抗議する。
タクトの腰を自分の方へ引き寄せると、男子生徒から「うわあ〜。」という同情にも似た声が沸き、タクトはスガタの肩越しに「違う違う!」と口をパクパクさせたが、同窓生からは「遊ばれやすいヤツ。」という呆れた視線だけが返って来た。
「ワコ、足は僕の方が長くない?」
「あ!え!?足??」
ほんのり頬を赤らめてそれを眺めていたワコは、密着する二人の股下を覗き込んでみたが、う〜ん。と渋い声を出した。
「ほとんど同じに見えるなあ〜。」
「・・・・信じられない。」
「ええ!?もう何があ?」
タクトは卵焼きを宙に持ち上げたまま、恥ずかしいのと困ったのとで複雑な声を大きめに張り上げた。
「僕がこんなに華奢だなんて。」
「それって僕の体で確認すること?」
呆れたタクトの口にようやく卵焼きは収まった。
「ワコ、私最近思いはじめたんだけど、スガタくんってもしかして天然・・いや、天性?」
「なんの話・・・。」

そんなスガタの故意か天然か分からないファンサービスのおかげで。
午後の授業が終わる頃にはその事件は学園中に広まっていた。
一部では劇団夜間飛行のパフォーマンス寸劇ではないかと噂が飛び交い、見逃した生徒はよもやもう一度起こるまいかと一年一組に集まっていた。
タクトとスガタが並んだだけで、きゃーっという悲鳴が上がる始末。
「エスカレートしてるな。」
「誰のせい?他人事みたいに言ってますけど。」
楽しそうにスガタが笑みをこぼすと、ふわあ!という声にならない悲鳴。
はあ〜〜と深いため息にタクトがスガタの机に手を付くと、少し縮まる距離にいやあ!という喜びの声。
「・・・・・・・・・もう、しばらくスガタには近づかない。」
「もう放課後になるけど。」
「それでも放課後までスガタには近づかない。」
二人の会話を盗み聞きしてる女子生徒から、ええ、、という落胆の声。
何やらこれではもう、二人で会話してるのやらよく分からなくなる。
入ってくるなら入って来てほしいんだけどなぁ。とタクトは思うが、女子達は二人の会話を眺めていたいのだ。
「じゃ、放課後。・・いつもの場所で・・。」
「って部活でしょ!変な言い方しないの!」
本日の女子生徒達が見れた二人の会話は、コレが最後となった。


「掃除中もさ〜。女の子たちに夜間飛行のこと聞かれたんだけど、な〜んでかスガタの役との関係性とか絡みがあるのか〜とか〜。」
「楽しみにしてくれてるってことなんだし、いいんじゃないのぉ?」
「それはいいんだけど、ちょっと悪ノリしすぎじゃない?スガタさん!」
「タクトくんモテモテだねぇ〜。」
「ミズノちゃんもあんまりタクトにべったりだと、変な噂が立っちゃうよ。」
「ぼっちゃま!それって嫉妬ですか!?」
「なんかイマジネーション湧いて来た!」
「部長ぉ!そこ膨らませないでください!」
ふざけて笑い合いながら、タクトはやっとほっとできた。
気兼ねない仲間達と詮索されずに会話ができる。
教室でももっと気軽にスガタと会話ができたらいいのにな。
くだらないことでふざけ合っても、他人の目を気にしないですんだらいいのに。
ここでしか、戦いを忘れることができないから。

放課後の二時間弱はあっという間に過ぎて、帰る頃になるとタクトは物足りなさを覚えた。
昼は学校、夜は闘い。
闘うことは構わない、それが自分の使命であり友人を救うことだから。
でも、だけど、やっぱり、
まだ16歳の高校生なわけで。
まだまだ遊びたいとか、学園生活を謳歌したいとか思うのだ。

「昼間がな〜、もっと長ければ良いのに。」
帰り道にぽつりと、子供のように呟いた。
ワコとスガタが振り向いた。
まだ明るい空を見上げて、タクトが不服そうな顔をしていた。
「遊び足りない?」
とスガタが言うと、
「私も!」
とワコがタクトの横に駆け寄った。
「まだ帰りたくないなぁ。」
まるで夕方の遊園地で聴く台詞のようだ。
ただの学生生活でも、友人がそう言うと嬉しくなる。
「遠回りして帰ろうか。」
いつもワコを家に送り届けることに、厳しいスガタが言った。