残像
骸は綱吉を一瞬抱きしめたくなったが、かろうじて抑える。今はまだその時ではない。
「いえ、・・・それでは」
それから3日後、霧の指輪は骸の手に渡る。もう破壊されたそれは、今白蘭によってボンゴレに関する記憶を奪われた骸が思い出そうとしても思い出せない、綱吉と骸を結ぶものだ。
夢から覚めた骸は何も思い出せないまま、夢を見る前と同じように白いアネモネの中に体を沈ませていた。
「目が覚めたみたいだね、どう?この部屋は?」
骸が視線を上げた先には白蘭がいた。随分愉快そうだ。
「・・・白蘭、何の用ですか」
淡々とした声で白蘭にそう聞くと、白蘭はアネモネを一房取って花占いをする少女のように、一つ一つ花びらを散らせる。
「んー、いやね、君に頼み事があってさ。大したことじゃないんだけど。ただちょっと闘ってもらうだけで」
君ならすぐに決着つくんじゃない?と白蘭は付け足す。アネモネの最後の花びらが散ってゆく。
それを見て何故か虚しくなった。おそらく、自分が従うべきなのは――いや、従うことを望むのは、あの夢に出てきた少年なのだ。だが、あの夢と現実が繋がらない今、骸は何をすべきか分からない。
出来るのは、目の前の事物を受け入れることと、自分のわずかな記憶を探ることだ。
「・・・それは、今すぐですか」
「いや、まだ来てないから今すぐってわけじゃないよ。でも・・・うん、いつ来るか分からないから、待機だけしてもらおうかな」
「・・・分かりました」
骸は上半身を起こし、アネモネを踏みつけるようにして立ち上がる。
眠りの先に何もないのなら、闘いに出た方が手がかりも見つかるかもしれない。
そんな気がした。それに大分身体も鈍っている。
「よし、んじゃ、行こっか」
白蘭が笑みを浮かべつつ、ドアノブを捻る。
骸はアネモネの敷きつめられた部屋に背を向けた。