残像
これほどまでに人間に執着することなど有り得なかったが、綱吉ならいいと思う。
「え・・・あ、あぁ、う、うん・・・そうだけど・・・なってくれるわけ―・・・って、ちょっ、骸!?」
綱吉が右手を何かに引かれたような気がしてふと下に視線をやると、骸が綱吉の前に跪いて手を握っていた。綱吉の顔はみるみるうちに赤くなる。
こんなことをされたのは初めてで、ましてや相手が絶対こんなことをしないであろう骸である。恥ずかしくて直視できなかった。
骸はその様子を見てクフフ、と楽しげに笑う。ウブなのは相変わらずだ。
「・・・いいですよ、ここに誓いましょう、僕が霧の守護者として君に仕えると。・・・先に逝かせはしない、絶対に」
噛み締めるように骸は言うと、綱吉の右手の甲に口付けを落とした。
唇と、手から伝わる綱吉の体温が一層骸に綱吉を愛しくさせる。
「ふ、ふぇえええ!!?む、骸、お前、どういうつもりで、」
顔を赤に染めつつ綱吉があたふたとする。訳が分からない。
継承式に出てくれるのも、霧の守護者になってくれるのも嬉しい。
だが、こんなことをする骸の意図が全く分からなかった。
「クフフ、そこまで驚くようなことでもないでしょう。君は毎回反応が面白いですね」
「お、驚くよ普通!か、からかうのも大概にしろよな!」
綱吉が紅茶の入ったカップを口元に運びつつ言うと、骸が溜め息をつく。
つきたいのはこっちだと思いつつ紅茶を飲んでいると、骸がぼそっと独り言のように呟いた。
「・・・からかっているわけではないのですがね」
「・・・え?な、何か言った・・・?」
「いえ、何も。僕はそろそろ行きますね」
安心したのか、ついぼうっとしてしまって骸が言ったことが聞き取れなかった。
綱吉が聞き返すと、骸は何事もなかったようにいつもの皮肉めいた笑みを浮かべつつ席を立った。
「あ、う、うん・・・あ、ありがとう、守護者のこととか、い、色々・・・」