聖夜に降る雪の星
それからすぐ、跡部はベッドの上に置いてあったガウンを手に取ると、羽織らせてくれた。
その忍足の身体をひょいと抱えあげた。同じくらいの体型なのに、鍛え上げられた筋肉は忍足一人くらい簡単に抱くことができるらしい。
「一人で歩けるで」
「いいから、ちゃんと掴まっとけ」
お姫様だっこをされたまま、窓際まで連れていかれる。
跡部がリモコンでスタンドの電気を落とすと、部屋の中が真っ暗になった。
ほぼ同時にカーテンが端まで引かれると、目の中にキラキラ光る雪の明りが飛び込んで来た。
眼下に広がるイルミネーションを反射して、雪は音も立てずに深々と降り続けていた。
まるできらめく星のように。
二人で窓際近くのソファーの背にもたれ掛かって眼下を見下ろす。
「きれいや」
「ああ、綺麗だ。こんな夜をおまえと過ごせるなんて、思ってもいなかった。おまえが俺の傍らにいるなんて信じられねえ」
「俺もや。跡部がこんな近くにいて、一緒にイブの夜を過ごせるなんて夢みたいや」
「好きだ」
耳元で優しい声が囁いた。
「俺も」
そのまま肩を抱かれる。
「さっきのが……俺のファーストキスだったんやで……」
「俺もだ」
跡部が? 嘘や。と言いたかったが、やめた。そんなことはどうでもいいことだから。
ちょうどその時。跡部の携帯がメールの着信を知らせた。
それをちらりと見るとパタリと携帯を閉じた。
「日吉からだ。忍足さん泣かしたら、下剋上ですよ。って送ってきやがった」
「日吉がか。日吉には俺なんかよりもっと素敵な子がきっと見つかるわ」
口の端を上げてニヤリと笑うと、跡部はこう言った。
「おまえは俺だけのものだ。もう誰にも渡さねえ」
「跡部」
「大事にする」
嬉しすぎて、跡部の胸に顔を埋めた。
「なあ今度はもっとロマンチックなファーストキスしようぜ」
胸の中から跡部を見上げた忍足の顔に。
再び跡部の唇が近づいて来て、忍足の唇と重なった。
想いの全てが流れ込んでくるようなキス。
すぐに口付けは深いものに変わり、息もできないくらい激しく舌を絡め合う。
それからやっと唇が離れていくと、緊張が切れて身体から力が抜けた。支えてくれた跡部を見上げると、跡部の頬も赤みを増している。
でもキスだけのせいとは思えないほど、跡部の左の頬が右頬に比べて、腫れたように赤くなっているのに気が付いた。
その左の頬に触れながら問う。
「跡部の左側の頬、えらい赤いで。どうかしたん?」
「ああ、これな。叩かれたんだ」
「えっ、叩かれたって?」
「俺がひどいことをしたからな。別れ際に一発叩いて貰った」
「跡部」
「おまえには関係ないことだから、気にするな」
自分が倒れて眠っていた間に、どんなドラマが展開していたのか、容易に想像がついた。
「……違うわ。跡部がどんなに悪くても。跡部が可哀想やと思ったんや。痛かったやろ」
もう一度、跡部の頬に手を当てて擦ってやる。
その手を捉えて握られた。
「忍足……そんな可愛いこと言うなって言っただろ。せっかく我慢してるのに、我慢できなくなっちまう」
そんなことを言う跡部の左の頬に、チュッとキスをした。
「熱あんだぞ、おまえ」
「やから、跡部が我慢すればええやん」
笑いながら言うと、跡部の顔も緩む。今までに見たことのない表情を見せてくれる。
「ああ、そうだな」
と跡部は答えたはずなのに、忍足の身体をぎゅっと抱きしめた。
抱きしめられて、キラキラ光る雪を見る。
静かに舞う雪の星。
あっ、もうすぐ。クリスマスや。
時計はもうすぐ12時を告げようとしている。
な、なん。ファーストキスはもう済ませたはずやろ。
という言葉も聞かず、もう一度だけなという跡部の顔がズームイン。
清らかなクリスマスベルの音を聞きながら、再び唇を合わせた。
好きな人との初めてのキスは、真紅の薔薇の花言葉。
忘れられないクリスマスの夜が更けていく。
「熱が下がったら、恋人同士でやること、もっとしようぜ、アーン」
「それ、男同士で聖夜に誓うことちゃうやろ」
見つめ合って笑った。
愛しい人と二人きりの聖夜に、メリークリスマス!
fin.