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エンドレスラブソング@12/13完結

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はくはく、とまるで地に打ち上げられた魚のように口を開けては閉めてを繰り返す横顔。
ずっと見ていたいけれど、あまり見たくもない光景。
結局静雄は、自分に負けてコツコツと凭れかかっていた扉を叩いた。
振り返る視線。
額を出した短い前髪に、幼げな容貌の彼は静雄を見て、にっこりと笑った。

「こんにちは、静雄さん」

彼はボーカロイド。
昔からずっと静雄の傍に居てくれた、静雄だけのボーカロイドだ。







「静雄さんちゃんとごはん食べてますか?仕事の合間にこちらに来て下さるのはすごく嬉しいですけど、ご飯休憩を潰してまで来てるなら駄目ですよ。それに毎日来なくてもいいんですよ。今のところ問題は見つからないので大丈夫、」
「うるせぇ。俺が来たくて来てんだから、帝人は関係ねぇだろ」
小言を遮るように不貞腐れて言えば、帝人はしょうがないなぁと子供を甘やかすように静雄を見る。
実際、静雄が幼い頃から帝人は変わらぬ姿でずっと静雄の傍にいるので、どんなに静雄が成長しても、帝人の背をとっくに追い越して大人になっても、帝人にとって静雄は子守唄をずっと聞かせてた小さな子供なのだろう。
けれど、静雄がへたくそと散々けなしながら唄えとせがんだ子守唄を、帝人はもう、唄えない。


(例え見た目は変わらずとも、所詮機械ですから、いつかは壊れるんですよ)


メロディーを紡ぐことができなくなった喉を震わせて、帝人は俯く静雄にそう囁いた。


(嘆かないで、哀しまないで、優しい子。唄えなくても、唄わなくても、貴方の傍にいますから)


ぐっと寄せられた眉間の皺に、帝人の冷たい指先が触れた。
「男前が台無しですよ、静雄さん。そんな怖い顔してたら、女の子が逃げちゃいます」
「・・・んなのどうでもいい」
「よくないですよー。その中に静雄さんの運命の人がいるかもしれないんですから」
いつからか、帝人は静雄に彼女を作れだの色々と煩く言うようになった。
静雄は端正な顔立ちで性格もキレた時以外は比較的穏やかで家族想いな青年だから、けしてモテないわけではないのだ。
しかし、静雄は今更恋人だの彼女だのとがっつくほど若くも無いし、例えそんな存在ができても、それ以上に優先する存在がいるので、できたところで変わりはしないと静雄は思っているのに、優先すべき唯一は今日も無邪気に静雄に恋を進めている。
何となく腹が立った静雄は、白いふっくらとした頬をむにっと摘まんだ。
痛い痛い痛いですー!という抗議は無視だ。
俺だって胸が痛いと静雄は心中で零しながら、一頻り摘まんだ伸ばしてを繰り返してから、放した。
恨みがましくこちらを見上げる視線。
ずっとずっと傍にあったもの。
だからこれからもずっと一緒に居るものだと、そう思っていた。

「なあ、やっぱりもう唄えないのか?」

落とされた言葉に蒼い眸が大きく瞠られ、そして困ったように細められた。
「そうですね。僕は旧式ですから部品を交換しようにも、もう製造中止になってますし、何よりメンテはできても修理できる方が居ないんです。無理に弄ったら、会話すらできなくなる可能性もあります」
「・・・・古いんだよな、帝人って」
「静雄さんのモノ持ちがいいんですよ。きっとこんなに大切にされているボーカロイドは世界広しといえど、僕だけかもしれませんね」
そうだ。
もう世の中にはたくさんのボーカロイドで溢れている。
帝人よりも唄が上手くて高性能なボーカロイドもたくさんいる。
彼の中のデーターを他のボーカロイドに移せば、きっと同じ唄を聴かせてくれるだろう。
あの静雄がせがんた子守唄も。
帝人は蒼の眸を細めて、微笑んだ。


「静雄さん、唄えないボーカロイドは不要ですか?」


その言葉に静雄は思わず拳を握るも耐えた。
そのかわり、震えた声で馬鹿野郎と詰る。
例えもう聴けなくても唄えなくても、静雄は帝人がいいのだ。
幼い頃からずっとそばにいる、あまり調教の行き届いていない音階で奏でながら稚拙なけれど穏やかで温かな唄を聴かせてくれる声でなければ嫌なのだ。
静雄にとっての唄は、全て帝人が唄うからこそのものなのだから。
金色の頭が、薄い肩へと圧し掛かってくるのを、帝人は慣れたように受け止める。
温かな人間の体温を機械である身体に沁み込ませるように、帝人は柔らかく金糸を撫ぜた。
ごめんなさい、と音の無い言葉を零して。







(傍にいて、唄わなくても、唄えなくてもいいから、傍に)