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あなたとわたしが乗れない電車③

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『星の寿命を、人間の寿命に換算すると、一年に一度っていうのは、ほとんど毎日べったり状態だそうです』

 またあるとき折原臨也は、可愛がるべき娘の装備を怪しんで、なぜスカートのなかに多種多様の文房具が装備されているのか聞いたことがある。娘は、スカートをめくられても特に文句も言わず、折原臨也が取り上げたホッチキスを返してー、とじゃれついてきた。バックでもポケットでもなく、スカートの中、なにかしらあやしいものを感じずにはいられない。折原臨也の娘は、スカートをめくられた事実ではなく、質問の方に顔を真っ赤にして『内緒です』と嘯いた。折原臨也の情報網を持ってしても、娘がその多種多様な文房具を何に使っているのか推測すら許されない。

 またまたあるとき折原臨也は、娘になぜ自分をママと呼ぶのか聞いてみた。きみのママ別にいるじゃん、と言った。そうしたら折原臨也の娘は、まだおさない舌ったらずな様子で秘密です、と言って笑った。そこまではかわいいのだけれど、折原臨也の娘はこう続ける。
『ママみたいなにんげんは、いろいろを知っている自分にだって知ることができない領域があって、それは他人に教えてもらうしかないってことを常に自覚しておくべきだと思うんです』

 そんなこんなを思い出して、折原臨也は首を傾げる。
「ねえシズちゃん、あの子かわいいって本気で言ってる?ねえ、ほんとのほんとのほんとの本気で言ってる?」
「ほんとのほんとのほんとの本気で言ってる」
 たまに、非常に仲が悪くてお互いだいきらいな平和島静雄と酒を飲みながらそんなことを聞くけれど、結局回答は変わらない。折原臨也の娘は可愛いらしい。
 家族ってフクザツ。その日は、折原臨也は必ずそんなふうに呟いて、けれど結局日付が変わる前に家に着くよう、帰っていくのだ。




10.

 実のところ。
 折原臨也には黙っているけれど、実のところ、折原臨也の娘には彼氏がいた。ひとつ年下で、少し童顔な、それをちょっとだけ気にしている男の子だ。出会ったのは、折原臨也の娘が2年に進級した春で、話しかけたのは意外にも折原臨也の娘からだった。付き合い始めたのは、ゴールデンウィークのあとくらいからで、告白したのは彼の方からだった。
 折原臨也の娘にとっては、3人目の彼氏さんだ。現在高校2年生として、その数が多いのか少ないのか折原臨也の娘にはわからない。控え目にいって、ごくごく平凡だというのが所感だった。
 折原臨也の娘は平凡だった。そして地味だった。けれど、そんなこと、世の中の男の人にはけっこうどうでもいいことなのだろうと思っている。もしくは、どうでもいいと思っている男の人が一定数はいるのだと。あるいは、それは真実だった。
 それに、地味にしていれば、近づいてくる知らないひとを警戒してもおかしくはないだろうという打算もある。誰かがつけこむ余地を残しておくことはないだろうと思った。折原臨也の娘は折原臨也の娘であるというだけで、部分的に、けっこうハードな生活を架せられている。―――そんなことを言いつつ、折原臨也に溺愛されて育った娘は、なんだかんだで本気で世間知らずなところがあるのだけれど。
 というわけで、平凡で地味で目立たない折原臨也の娘は、保護色でいろいろを欺いているひとつ年下の彼氏さんと今日も仲良く隣に並んで下校中だった。手は繋がない。ときどき、彼氏さんの方に言われるけれど、折原臨也の娘はあんまり手をつなぐだとか、そういう行為が好きではなかった。彼氏さんもだめならいいか、というかんじだった。だからべつにいいのだと思っている。
 のんびりと、駅に向かって歩く道の途中で、折原臨也の娘は、折原臨也の天敵を見つけた。不倶戴天の敵というやつだ。折原臨也にとってはそんなふうでも、折原臨也の娘にとっては昔から構ってくれる愉快なお兄さんだ。折原臨也の周囲いるアクの強い面々も、そんな環境で育った折原臨也の娘にとっては愉快だったり優しかったりするお兄さんやお姉さんと十把一絡げだ。都市伝説の首無しライダーでさえ、優しいお姉さん、の一言だったりする。
 お兄さんやお姉さんというあたりは、折原臨也の娘の優しさだった。だって、折原臨也と彼らは年が近かったり、同い年だったりするから。
「こんにちは、静雄さん。お仕事中ですか?」
「いまは休憩中だ」
 いつになく優しい表情をしている平和島静雄に、彼を良く知ってしまっている周囲はいささかぎょっとした顔をして通り過ぎていくことに、折原臨也の娘は気づかない。
「―――ん。悪い。邪魔したか」
 折原臨也の娘の彼氏さんに気づいた平和島静雄は、いささか気まずい顔をした。折原臨也の娘が否定をする前に、彼氏さんが、そんなことないですよ、と言った。
 それから、少し考えるそぶりをして、
「今日は先に帰りますね」
 と、にっこり笑って礼儀正しくお辞儀をして去っていった。止める暇もなかった。まあ、あの彼氏さんなので変な風な勘ぐりをしたとかでなく、単純に気をつかってくれたのだろう。その気遣いは結局、保護色の一部なわけだけれど。―――まあいいか、と思っていると、一緒に彼氏さんの去りゆく背中を見つめていた、平和島静雄が、なんとなく視線だけを折原臨也の娘に向けてきた。何か言いたそうなまなざし。
「な、お前、さ」
「言わないでください言わないでなにも言わないで」
 平和島静雄の言わんとするところを理解した折原臨也の娘は全力で拒否したが、ひとの良い平和島静雄は言わなければと責任感を感じたらしい。黙っていてはくれなかった。
「うーん、あー、さっきのやつ、なんか、さ」
「わかってますうぅぅぅ」
 折原臨也の娘は堪えきれずに座り込んだ。
 なんだかんだと言ったところで、複雑怪奇な性格をしている折原臨也や、その周囲の珍奇な面々を見て育った娘が、世間の一般的男性で満足出来るかと言ったら答えは否なわけで。

「………ママに、似てるんです」

 折原臨也の娘は、そとから見れば立派なファザコンだった。
 慰めるみたいに、平和島静雄は、折原臨也の娘の頭を撫でた。