くもり時々雨 のち 晴れ
ぼーっとしてるうちに、いつの間にかボクの涙も乾いていた。ボクは何気なく満天の星空を眺めていた。
「マルー、もっと顔をよく見せてくれ」
すっと、若の手が伸びてボクの顎をそっと掴んで若の方へ向かせた。
なんだか、恥ずかしくて若の顔を直視できなかった。
思わず顔を背けたボクの髪を若は優しく梳いた。
「変だよ、若。なんだかおかしいよ」
「お前のこと、丸ごと愛したい」
「え??」
それから、若はとまどってるボクの肩を掴んでボクの目をじっと見つめたまま、今までに聞いたことないようなもの凄く優しい声で囁いた。
「抱いても・・・いいか?」
その瞬間ボクの頭の中は真っ白になっちゃった。だけども、ボク何故だか頷いてた。
それからの事は頭がぼーっとしたまんまで、ずっと夢の中にいるみたいだったけれど、すっごく幸せだった。
月の光がとっても明るくて、ボクの全てを若に見られてしまうのが無性に恥ずかしかった。
胸がどきどきして、緊張して固まってるボクを若はそっと抱きしめてくれた。そしたら、若の温もりで魔法みたいに緊張が溶けていって・・・それからはいっぱい愛し合った。
その時、エリィさんの台詞を思い出した。ゴルゴダの丘へ行くときの台詞。
・・・私はその男と身体を重ねることに至福を感じる。自分の持ってるものを与え、彼が与えてくれるものを受け取って一つになる。その瞬間、この上ない安心を得られるの・・・
ああ、ボクも若と交換しあったんだよ、お互いの5年間の想い、いや、それ以前からずっと抱いていた想い。そして初めて知ったんだ、大好きな人と結ばれることの幸せ、一つになることの喜び。今のボクだったら、あの時のエリィさんの気持ちがものすごく解るよ。若のためだったら、迷うことなく全てを投げ出せるもん、死んだって構わないや。
ずっと夢見心地のボクの頬に涼しい夜風が当たって、ふと我に返った。
すぐそばには若がいる。やっぱり夢じゃないんだ。
あは、若ったら、なんだか気まずそうにしてる。ちょっとからかっちゃえ。
「ねぇ、若ってば、手ぇ早いんだね。そうやって、今まで何人の女の子を泣かしてきたんだい?」
「ば・・ばかっ、人聞きの悪いこと言うな。俺は女を泣かしたことなんかないぞ」
「ボクは今まで思いっきり泣かされたよ」
「おい、それはまた違うだろ?お前の場合は自分で勝手に泣いたんだろうが」
「あはは、若ったら、むきになってる」
「・・・・・・俺様をからかうんじゃねぇ!」
若の事、からかうとおもしろい。顔がもろに崩れちゃって、すっごく可愛い。
そんな時、ボクやっと若に追い付いたのかなって感じでなんだか嬉しい。
「っくしょん」
「若、大丈夫?風邪ひくよ」
「ああ、さすがに冷えてきたな。そろそろ部屋に戻るか?」
「うん」
それから、ボクたちは一緒に眠った。初めはもしこれが全部夢で、起きてみて醒めてしまってたらどうしようってちょっと怖かったけど、若がボクの手をしっかりと握ってくれてたから、全然平気だった。若の胸、とっても暖かくて気持ちよくって、ボクすぐに眠っちゃった。
それから、数日が経った。
抜けるような青空に大聖堂の鐘が響きわたり、賛美歌が流れてた。
ボクは、その日ニサンの大聖堂で若と永遠の愛を誓い合った。
大聖堂を出るときボクは振り向いて最後にもう一度大天使像を眺めた。ステンドグラスから差し込む光の向こうに佇んでいるそれはとても綺麗だった。
大聖堂の外へ出ると、シスターや村の人達がみんなでボクたちを祝福してくれた。
「マルグレーテ様、おめでとうございます。私は本当に嬉しいです」
「シスターアグネス、ありがとう!こんな素敵なドレスまで用意してくれて」
「ええ、私はこの日が来るのを信じていましたから」
「ボクと若のこと最後まで応援してくれたの、シスターだけだったよね。ありがとう、シスター、本当にありがとう。あとは任せたね」
「ええ、お任せ下さい。また、こちらの方へも遊びに来て下さいね」
「うん、じゃあね、シスターアグネス」
「御達者で、マルグレーテ様」
シスターアグネスは微笑んでボク達に小さく手を振ってくれた。
それから、村のみんなに見送られて、村のはずれに駐留しているユグドラシルへ向かった。
そこには、ユグドラのみんなが待っててくれた。
「若!」
「おめでとうございます」
ユグドラのみんなも、祝福の嵐を送ってくれた。
式に参列していたシグルド様や爺も祝福してくれた。
「若、おめでとうございます」
「若様、よくぞマルグレーテ様とご一緒になられました。爺は本当に嬉しゅうございます」
「へん!大教母様くらい落とすのはちょろいもんさっ」
・・・・・よく言うよ〜
「自信がないって言ってたの、誰だっけな」
「??」
シグルド様と爺が怪訝そうに顔を見合わせた。
「だ〜っ、それは言うな!」
「あはは」
「おらおら、もう行くぞ!シグ、爺、こいつ共々これからもよろしく頼むぜ」
「ええ、もちろんですとも」
ユグドラのエンジン音が鳴り響く。
ボク達二人は甲板からニサンを見送ろうとしていた。
「もう、いいのか?」
「うん、またいつでも来れるしね」
「よし、じゃあ、行こうか」
「うん!」
ゆっくりとユグドラシルが浮上し、大空へと舞い上がった。
大聖堂を囲む湖面がきらきらと輝いていた。その輝きも見る見るうちに小さくなっていった。この5年間、心血を注いできたボクのニサン、離れてしまうのは少し寂しいけれど、また、遊びにくるからねっ。
遠くに消えてしまったニサンを見送り、視線を空へ移すと空の遠くに浮遊する丸い物体を見つけた。
「あ、若、見て!シェバトだ!あれシェバトだよね?」
「おお、ついにシェバトも復活したのか!?」
「そうみたいだね、さすが、シタン先生達だね・・・そういえば、他の人達は今頃どうしているんだろうね。フェイさんとエリィさんとか・・」
「そうだな、あいつらとはあれ以来、連絡全然取ってねぇからな。どこにいるのかすらわからねぇ・・よし、じゃあ、俺達のハネムーン代わりに、世界中をあいつら探して飛び回ってみるか?」
「わーい、それ、賛成!」
はしゃぐボクの肩を若がにこやかな笑みを浮かべて抱いてくれた。
眼下にははるか彼方まで広がるイグニスの大地。
これから、ボクは若と二人で、互いの翼を広げてこの大地の上を羽ばたいていくんだ。
いつまでも、どこまでも。
ボクのときめきはずっと止まらなかった。
-終-
作品名:くもり時々雨 のち 晴れ 作家名:絢翔