くもり時々雨 のち 晴れ
ピシッ!バシッ!
「やだー!やめて!若が死んじゃうよー!」
「さっきからうるさいガキだ、じゃあ、お前も痛い思いをしてみるか?」
「このはげ野郎!!マルーに手ぇ出すんじゃねぇ!」
「くーっ、どいつもこいつもいけ好かんガキだ・・その様子じゃ全然足りないよ
うだな・・・死んでもかまわん、もっと強くやれ!」
バシッ!バシッ!バシッ!
「うわあああ!!」
「若ー!!」
シャーカーンに捕まっていた時に、ボクの身代わりになって若は死にそうになるまで鞭でぶたれて・・それでもボクを庇い続けてくれた。
辛い思い出だけど、不思議となんだか暖かい思い出でもあった。
「くすぐったいな、マルー」
「え?」
知らず知らずのうちにボクは若の背中の傷跡を指でなぞってたみたいだった。
「あ、ごめん、若・・・・・この傷跡、ボクのせいでついちゃったんだよね?」
「え?そうだっけな・・そんな昔のこと忘れたよ」
「えーそうなの?ボクのこと一生懸命庇ってくれたでしょ?忘れちゃったの?」
「え?あ、そういやそうだったけな」
「若、いつも庇ってくれてありがとうね・・・」
「礼には及ばねぇよ。男が女を庇うのは当然だろ?」
あはは、そう、当然なんだよね。単にボクが女だから庇ってくれたんだよね、ましてや妹みたいなわけだし・・・でも、それ以上じゃ・・・・・ないんだ。
「どうしたんだ?!マルー!」
いけない!思わず涙が出ちゃった。若の前では絶対に見せちゃいけなかったのに!
「い、いや、なんでもないの・・」
「おい、待てよ。なんで急に泣き出すんだ?」
「だから、大丈夫だって」
そう言って、ボクはまたその場を逃げだそうとした。都合が悪くなると逃げ出しちゃう、ボクの悪い癖・・・
ボクは腕を思いっきり掴まれて、引き戻された。
「大丈夫じゃない!頼むよ、ちゃんと理由を説明してくれ。もう逃げないでくれ」
若はひどく困った顔で懇願するように問いつめてきた。もうボクはごまかしきれなかった。
「だって・・若にとって、ボクはただの妹なんでしょ?だったら、どうしてボクのことそこまで守ってくれたの?どうして、ボクにそんなに優しくしてくれるの?ボクは、ボクは・・・うっ、ひっく」
「マルー・・・」
若はしばし呆然とした後、ゆっくりとボクを抱きしめてくれた。
「すまん・・マルー、そうだったのか・・・・」
そして若はいつもの若とは思えない口調で、一言一言絞り出すようにボクに語り出した。
「俺は・・はじめはお前に対する自分の気持ちなんてわからなかった。ひたすら、お前を守りたいとだけ思ってた。ただ、いつも照れくさくて、ついついお前に素っ気ない態度ばかり取っていた・・・それがお前をそこまで傷つけていたなんて、全然知らなかった。わかってなかった・・・本当にごめん。マルー」
「若・・・」
「俺が自分の気持ちに初めて気付いたのは、デウスを倒してアヴェに戻った時だった。いつも俺の後をついてきていたお前がいきなり独立宣言して、ニサンへ戻っちまった。その時、自分でも可笑しいくらい空虚で、辛くて、寂しい気分になった。それで、ようやくわかった。俺はマルーに惚れてたんだと・・」
う、嘘・・・・
「アヴェに戻ってからはやるべきことが限りなくあった。お前のことを振り切ろうとがむしゃらに働いた。だけど、振り切るどころか、お前との思い出はどんどん俺の中で大きくなるばかりだった。アヴェが落ち着いたら、絶対お前に逢いに行こうと思ってた。ずっと逢いたかった・・」
何で?何で?何で若が?・・これは・・夢?
「そして、やっとお前に逢うことができた。見違えるほど綺麗になっていて驚いた。俺はとどめを刺された。でも、俺にはもう自信がなかった。ずっとお前には避けられてるような気がした。それで、お前には恋人がいるんじゃないかと思った。俺よりもはるかに素晴らしい恋人が・・それを確かめるのが怖くて、今の今まで自分の気持ちをうち明けることができなかった・・おどけてることしかできなかった・・・」
若はこんなロマンチックなこと言ったりしない、こんな弱気なこと言ったりしない・・これは若じゃない・・やっぱりボクは夢を見てるんだ。
「う、嘘だよね」
「嘘じゃない!俺はすごく嬉しいよ。お前がそこまで俺の事を想ってくれてたなんて。俺もお前の事が好きなんだよ、マルー」
「夢・・・じゃないの?」
「夢でもない!俺は今ちゃんとここにいてお前に話しかけている。夢だというなら、それが醒めるまででも醒めてからでも何回でも言ってやる。お前に惚れてるんだ!愛しているんだ、もうお前を離したくない!」
そう言って、若はボクをぎゅっと抱きしめてくれた後、キスしてくれた。
なぁんだ、そうだったんだ・・若もおんなじ想いしてたんだ。ほんとにボクと一緒。だのに、ボクそんなことも知らないで、一人でつっぱってて・・・あはは、何してたんだろう、全く。
ボクの目からまた一筋の涙がこぼれ落ちた。
「おい、マルー、頼む、泣かないでくれ」
「ごめん、若、でも、これはね・・・嬉しいから!嬉し涙だよ。あのね、ボクもね、ずっと若に逢いたかったんだ。小さいときからずっと若のこと好きだったんだ・・・・今まで意地張ってたの。ごめんなさい!」
ボクはつっかえがはずれたかのように今までの想いを全部若に告げた。
その間、若はずっとボクの頭を撫でてくれていた。
今までの事全部吐き出して、すごくすっきりした。でも、突然の展開に頭の中はまだパニック状態だった。
作品名:くもり時々雨 のち 晴れ 作家名:絢翔