二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

静謐の。

INDEX|2ページ/2ページ|

前のページ
 

全てを持つ兄を、ただ兄として慕っていた頃に戻りたかった。こんな黒くどろどろした感情など知りたくなかった。それが叶わないのなら、せめて兄を妬ましく思ってい頃に。啓介がずるずると足の力が抜けていくのを止められず、バルコニーの手すりに縋るようにして腰を下ろす。
コントロールできない感情に、自分自身が少しずつ少しずつ侵食されていく感覚はただひたすらに恐ろしく、もがくように手を伸ばせば、その先にあるのは掴みとることなど出来やしない太陽の光だ。反射的に引っ込めた腕の行き場はどこにもなく、自分自身の首を絞めようかと思う瞬間もあるというのに、それでもまた、光に吸い寄せられ手を伸ばす。どうしようもなく劣悪な循環は、けれど途切れることなく、まるで遺伝子レベルで決定付けられた真実のようにして啓介を縛り付けている。
くっく、と唇を震わせて啓介が笑う。見上げた空に星は見えない。黒い空に真っ黒の雲が漂い、気付けば月すらも啓介の前から姿を消していた。

ああ、こんなにもどす黒く醜悪な感情を、

人 は な ぜ 愛 と 名 付 け た の だ ろ う 。
作品名:静謐の。 作家名:あゆみ