舫い綱
3人の会話のわざとらしさは明らかに何かを隠していたけれど、カヤにはそれが何なのかわからなかった。その後は何となくわだかまりを感じながらもいつもの他愛もないお喋りを交わして夕焼けが空を染め上げた頃、手を振り別れ、それぞれの家路に着いた。
屋敷に帰れば執事のメリーが満面の笑みで出迎えた。部屋で一息ついて食堂に行けば、カヤの好物が並んでいる。
「どうしたの? 今日は何か変だわ」
3人組の様子といい、屋敷の連中といい、いつもと微妙に違う態度に居心地悪そうにカヤは聞く。
「そうですね。今日は特別な日ですから」
メリーの表情は相変わらずにこやかだ。
「特別?」
食事を口に運びながら笑顔で小首を傾げる。自分の誕生日はまだ先だし、メリーが初めてここに来た日ももう少しある。あと、思い当たることといえば……
「ウソップさん!? 連絡あったの!?」
食事を忘れて立ち上がるカヤをメリーは手で制する。
「……ええ。まあ、そうなんですが、先に食事を済ませませんか?」
メリーが苦笑しながら言う。カヤは素直に頷くと、大急ぎで、それでも料理人達への感謝を忘れずに味わいながら食事を済まそうとする。
食後の紅茶を口に含みながらカヤがソワソワし始めた時、メリーが後ろ手に持っていた封筒を差し出した。
「今日、ローグタウンから届いていました」
「!!」
カヤはひったくるように受け取る。差出人の名を見るが、ない。差し出し先の消印はローグタウン。カヤの知らない島のものだった。もどかしそうに封を切り、4つに折られた真っ白な便箋を広げると、そこには短く、
『カヤへ 元気か? 俺は元気だ。 偉大なる海の男 キャプテン・ウソップ』
バランスの取れた文字で書かれたたった二言と署名だけ。
「ローグタウンは、あのゴールド・ロジャーが処刑された島ですよ」
自室に戻る前、カヤの瞳が嬉しそうに輝くのを見てメリーが言った。
そこは『始まりと終わりの島』だとも。カヤは頬杖をついて何度も手紙を読み返す。投函の日付は随分前だから、今頃彼らはグランドラインにいるはずだ。ひょっとしたら、仲間も増えているかもしれない。いつか、偉大なる海の男はその仲間と共に、とびきり大げさな冒険話を土産に帰って来るだろう。何十年先でもかまわない、大いに笑えるその時まで、待っていよう。そう決心すると、カヤは出されることない手紙の束を傍らの屑入れに放った。大丈夫。便りよりも確かな絆が、私達にはある。カヤは、すっかり暗い夜空に浮かぶレモンの月を見上げると、偉大なる海の男の無事と幸福を祈った。
その頃、当のキャプテン・ウソップは、真の『偉大なる海の戦士』達と出会えたことに感激しつつ、麦わらの船長と肩を組み、酒を交わし、歌っていた。いつか、自分自身が『真の偉大なる海の戦士』となることを夢見ながら。