【イナズマ】赤いきつねとシングルベッド
てっきり駄目だといわれると思っていたので、いいと言われて逆にためらってしまった。
ヒロトは目を閉じたままじっとしている。
一瞬の逡巡の後、恐る恐る手を伸ばして触れば、思ったとおり毛並みは滑らかでとても心地良かった。
上等の天鵝絨のような手触りだ。
撫で続けていると、ヒロトは気持ちよさそうに嘆息した。
「……うわー……すげー……」
「気持ちいい?守」
「え?あ、まあ、うん……ふわふわだな」
「ふふ……気に入ってもらえて嬉しいよ」
「……あのさ、ヒロト」
「なんだい?」
「神様ってさ、その、こんなに人懐こくていいもんなのか?」
「いいんじゃないかな?まあ、俺の仲間にも気位の高い奴はいるけどね。俺は堅苦しいの嫌いだし」
そう言うとヒロトはちらっと片目を開いてこちらを見やる。
「……それに、守は特別だよ」
「そ……そっか……」
妙に気恥ずかしいような気持ちになって視線を逸らした円堂に、ヒロトは喉の奥でくつくつと笑う。
それはもう、楽しそうに。
「ね、守」
「ん?」
「……捨てないでね」
「え……?」
「おやすみ」
ぱちりと目を閉じて、ヒロトは体を丸める。
これ以上は話すつもりはない、ということだろう。
しばらくその背中を見つめた後、円堂は部屋の明かりを落として、自分もベッドに横になった。
傍らからじんわりと、自分以外の熱を感じるのが慣れない、けれどどこか心惹かれる。
「……うーん」
これも多分、所謂縁、というものなのだろう。
ヒロトと自分が出会ったのも、きっと何か、大きな流れの中で起こったことなのだ。
ならば受け入れようと思う。
例えばどんなにそれが不可思議なことでも。
でなければなにも変わらないし、始まらないのだろうし。
「おやすみ」
円堂はぽん、とヒロトの背中を叩いて目を閉じる。
しんしんと、春の夜は静かに深けていった。
作品名:【イナズマ】赤いきつねとシングルベッド 作家名:茨路妃蝶