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【APH】ボーダーライン【ギルベルト先生夢】

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 先生はその言葉に、ようやくこっちを向いた。
 切なそうな表情。きゅん、と音を立てて胸が痛んだ。
「……名前で呼べば、お前は満足か?」
 先生は静かに尋ねてくる。
 その質問は、私の訊き方と同じくらい、卑怯だ。
「そんなわけ、ない」
 分かっている。きっと、名前を呼ばれてしまっては、その先を、その先をと、今よりももっと貪欲に先生を求めてしまうだろうと言う事は。
 だけどそれを理解しても尚――私は、先生の声で、私の名を、呼んで欲しいと願った。
「先生のとくべつに、私はなれない……?」
 それはつまり。この関係から踏み出してしまいたいと言う叫び声と同じで。
「……俺は、」
 先生は私の髪に触れようとして、けれど、途中で手を止めた。
「お前のとくべつには、なれねぇよ……」
 私が先生のとくべつになれないんじゃない、先生が私のとくべつにはなれないのだと言った。
「……変なことばっか、言ってるんじゃねぇ」
「……本気なのに」
 ぷくっと頬を膨らませる私に、先生はちょっとわざとらしく苦笑した。私もあんまり真面目な雰囲気になるのは得意じゃないから、先生のその優しさに甘えさせて貰う。
 私は身体を起こすと、あーあ、とわざとらしく言った。
「彼女の居ないかわいそーな先生の彼女に立候補してあげようと思ったのにな!」
「余計なお世話だっつーの」
 赤ペンで頭を小突かれて、一瞬の間が生まれる。お互いの視線が絡み合って――
「……っぷ」
「っは、あははははは!」
 お互いに笑いを堪え切れずに、大声を上げて笑ってしまった。お腹が痛くなるくらいに爆笑して、目尻に涙が滲んでくる。私がそれを拭いながら先生を見上げれば、先生もお腹を押さえて必死に笑いを堪えようとしていた。
 あぁ、もう。
 結局はぐらかされちゃった。
 それで結局――この距離が一番心地いいなんて、思わされちゃうんだ。先生はずるい。全部分かってやってるんだから。
「ねぇ、せんせー」
 私が先生に寄り掛かれば、先生はちょっぴり動揺したように、肩を震わせる。私はそれに心の中で笑いながら、先生を見上げて意地悪に言った。
「私が高校卒業して、先生が私の家庭教師じゃなくなったら――そのときは、覚悟しておいてね?」
 それまで散々はぐらかされて、誤魔化されてきた分、たっぷりお返ししてあげる。
 境界線なんて無くなったその時には、
「私、本気だから!」
 先生には私のことを名前で呼んで欲しい。
 それで私も、貴方のことを――先生、じゃなくて、ギルベルト、って、呼びたいんだ。