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こがみ ももか
こがみ ももか
novelistID. 2182
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だから僕は振り返られない

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濃厚にはならずに、あっさりと不本意な口付けは終わった。やわらかくもなんともない、押しつけるような奪い方。あのとき、ロシウとはキスをしただろうか。慣れない彼の感触がじんわりとしみてくる。焦燥感にかられる。覚えていたかった自分と、忘れていることに安心している自分がいて、両方を客観的なもう一人の自分がずるいと罵倒する。奇妙な感情を、長いこともてあましている。
それでも、危機に面したとして誰を一番に自分が助けるかといえば、ニアだろう。彼女を愛している。強い瞳と、信念と、たおやかさと、すべて。もやもやする。ロシウがなんでもない顔をしているのに、悔しい。
目をしばたたかせるシモンに、ロシウは薄く、意地悪に笑った。それにもまた驚いてしまう。
「僕はものわかりがいいんです。だから……だからあなたが幸せならそれでいいと思うんですよ。唇一つ、許されてもいいとも、僕は思っている」
「ロシウ」
なんと言っていいか、思いつかなかった。言葉は、苦手だった。繕えず、八方塞りになった気分になる。口を利きかねていると、ロシウはドアを指差して言った。
「今日はもういいので、はやく帰ったらどうです。ニアさんが、待っているんでしょう」
その笑っている、意地悪なはずの顔が泣きそうに見えて、シモンは頷くのをためらった。ここは、頷くべきかもしれないとも、すぐに考えた。あのときのロシウと、現在の彼が重なって見える。
付き合いが長いから、他の政府要人の知らない彼をシモンは知っている。表情の一定な彼を、近頃変わったと感じていたが、やはり彼は彼だ。
「わかったよ。じゃあ、また明日な」
早足で、ロシウの横を抜けた。背後から押し殺した声がする。
出会った頃から、意外と彼は泣き虫だった。